心をつなぐ味(10月1日)
ひと口で元気が出た食卓のカレーライス、部活帰りの学校近くの食堂でたいらげたソースカツ丼、カレー焼きそば…。再び口にした時、懐かしい昔がよみがえる▼会津の小さなラーメン店を舞台にした映画「日めくりの味」が完成した。母の後を継いだ物憂げな男性店主がほそぼそと営業を続ける。人々を笑顔にした“おふくろの味”は、今はない。ある日、愛する人との思い出の味を求めて1人の女性が訪れる。店主を揺り動かし、母と子の絆、人々の再生物語が始まる▼スクリーンには、鶴ケ城や見慣れた街並みが登場し、雪景色が広がる。全編にあふれる素朴な会津弁、温かな人情が心に響く。監督、脚本、主演俳優は会津若松市出身者が名を連ねる。地元の実行委員会が撮影やエキストラの手配などで制作を支えた。まさに「オール会津」の思いがたっぷり詰まった作品だ▼人は時に後悔し、人生を巻き戻したいと願う。それでも前へ背を押す人がどこかにいたりする。店主は母の味を追いかけながら過去と、母の思いに向き合う。映画は4日に福島市と山形県米沢市で封切られる。織りなす人間模様は心と体に染み入り、手塩にかけたスープのように温かい。<2024・10・1>