大麻「の使用罪」新設が、じつは「国際的な潮流」に逆行していると批判を受けているわけ
大麻使用罪とは
もう1つ着目する改正として、大麻使用罪(新法上では「施用罪」)の新設が挙げられる。これまでの大麻取締法では、覚醒剤やあへんなどの規制薬物と異なり、大麻使用については禁止規定も罰則もなかった。 その理由の1つとして、許可を受けて大麻を栽培している農家の人などが、大麻栽培や収穫などの課程で意図せずとも大麻成分を吸引することがあり、いわゆる「麻酔い」となることがある。これが「大麻使用」として刑罰を受けることがないようにという配慮だったとされている。 大麻は、現在でも神社の注連縄、相撲のまわし、天皇陛下に献上する麻布の材料などとして、免許を受けた農家によって栽培されている。 大麻使用罪は、今回の改正によって、医療用の大麻使用が認めれたことによって、「大麻には害がない」「大麻解禁」などという誤った理解が広がり、大麻の乱用につながることが危惧されたため、その新設が行われたのである。 さらに、法改正以前からも大麻使用は若年層を中心に、この10年間で急激に増加していた。 一方で、覚醒剤使用は低下を続けており、昨年初めて大麻での検挙人数が覚醒罪を上回った(図2)。こうしたことへの危惧も使用罪新設の背景にあったと考えられる。
法改正の課題
このような法改正において、いくつかの課題や懸念がある。まず、医療目的としての大麻使用に道が開かれたことは歓迎すべきである。 従来の薬で効果がみられなかった難病に苦しむ患者に新しい薬が届くことは福音となるだろう。 しかし、CBDだけでなく、THC製剤にも効果が認められている医薬品はいくつもあり、欧米ではその活用が広がっている。 近い将来、わが国においても、こうした医薬品の活用が認められることが望まれる。 また、使用罪については、国際的な潮流に逆行しているとの批判が根強い。 国連は、2016年の薬物問題特別総会において、薬物使用者の人権と尊厳を尊重することの重要性を強調し、「薬物治療プログラム、対策、政策の文脈において、すべての個人の人権と尊厳の保護と尊重を促進すること」と決議した。 さらに、従来の「犯罪」としての見地から「公衆衛生」しての見地を重視し、処罰による対処から、効果的・包括的・科学的なエビデンスに基づく治療、予防、ケア、回復、リハビリテーション、社会への再統合が必要であると強調された。 つまり、処罰は末端の薬物使用者の社会的排除、スティグマにつながり、回復や社会復帰を阻害してしまうという科学的エビデンスに基づき、国際社会は「処罰から治療へ」という方向に大きく舵を切ることになったのである。 今回の「使用罪」新設は、残念ながら、この潮流に真っ向から反対するものである。 望ましい方向性は、処罰を強めて末端の薬物使用者を社会から排除するよりも、予防啓発、治療、福祉などの方策を拡充し、社会の認識の変革を推進していくことであろう。 それはけっして薬物使用を甘くみたり、薬物使用を許容したりすることを意味するのではない。 薬物の製造や密売に関与した人々に対しては、世界中のどの国でも厳罰で臨んでいる。 このように、世界の潮流というだけでなく、われわれの社会が同様に目指す方向性は、違法薬物には断固たる態度を取りながらも、その一方で末端の薬物使用者の人権を守り、社会復帰を後押しするような態度であろう。つまり、刑罰に加えて厳しいバッシングや社会的排除を行うのではなく、彼らが健康的な生活を取り戻し、再び社会に包摂すべく手を伸ばすことを忘れない社会の在り方を模索していくことである。
原田 隆之(筑波大学教授)