中国にかつてない「女性上位社会」が到来…そもそも中国人女性は、日本人女性とどう違う?
中国は、「ふしぎな国」である。 いまほど、中国が読みにくい時代はなく、かつ、今後ますます「ふしぎな国」になっていくであろう中国。 【写真】中国で「おっかない時代」の幕が上がった!? そんな中、『ふしぎな中国』の中の新語.流行語.隠語は、中国社会の本質を掴む貴重な「生情報」であり、中国を知る必読書だ。 ※本記事は2022年10月に刊行された近藤大介『ふしぎな中国』から抜粋・編集したものです。
白蓮花(バイリエンホア)
「白蓮花」、もしくは同義語の「緑茶婊(リュイチャービアオ)」。いずれも現代中国の若い女性を指すネットやSNSの流行語である。 直訳すると、「白い蓮の花」「緑茶不良娘」。はて? この言葉について説明する前に、「そもそも論」を少々述べよう。 「そもそも中国人女性は、日本人女性とどう違うの?」 中国ウォッチャーを30年以上続けている私が、よくぶつけられる質問だ。「中国の人口は14億人だから、単純に2で割ると女性は7億人。そんなに多くの人のことを知るわけないでしょう」―これがホンネなのだが、「中国ウォッチャー」を名乗っている手前、そうは答えられない。そこで、ささやかな中国の友人知人の話をしたりする……。 いまから30年も前の1990年代前半、東京に「中国人妻の会」という団体があった。当時ポツポツと、日本に留学に来た中国人女性や、北京や上海などでの駐在員時代に知り合った中国人女性と結婚する日本人男性が現れ始めていた。 ところがビザの問題に始まり、言葉や食事、生活習慣など、中国人女性を娶った日本人男性の悩みは尽きない。その頃はインターネットもなかったので、同じ悩みを持つ日本人男性同士が、半年に一度くらい居酒屋に集まって、情報交換しようということになったのだ。 私は当時、独身だったが、「彼女が中国人」ということで、一応の有資格者とみなされた。30人くらいメンバーがいて、その半数くらいの妻が上海人。しかも妻が相当年下という男性も少なくなかった。 参加してみるとこの会、「悩みを分かち合う」どころか、「中国人妻おのろけの会」だった。「ウチの嫁さんはベッピンの上に器量もよくて、オマケに夜の方も……」などと、男たちはラブラブの2ショット写真を片手に、自慢し合っていた。何だかシラけてしまって、私は次回から欠席を続けた。 それから15年ほどして、たまたま北京行きの飛行機で、その会の幹事だった男性と隣席になった。私が昔の非礼を詫びると、彼は頭を搔きながら弁解した。 「いや、あの会はもうとっくにないんです。実は会員の8割くらいが離婚してしまって……。 かくいう私も、いまはバツイチの身。やはり妻を娶るなら、大和撫子に限りますよ」 北京までの4時間ほどの機中で、彼はメンバー一人ひとりの「修羅場話」を明かしてくれた。要約すると、ほとんどのケースで、日本人男性は中国人女性に捨てられていた。 その15年で、中国は奇跡の経済成長の道を邁進し、日本は「失われた20年」で迷走していた。中国人女性たちは、「チャンスは祖国にあり」と考え、夫や、時に子供も捨てて帰国していったというのだ。 「要は、カネの切れ目が縁の切れ目というわけです。中国人女性は愛嬌があるけど、その愛嬌を信じるなと言いたいね」 彼は機中でビールを何缶も空けて、赤ら顔になりながら独り肯くのだった。 その後、私は北京駐在員になり、3年間で1000人を超える中国人女性と名刺交換をした。中国は日本とは比較にならない男女同権社会なので、「出産前後の数ヵ月」を除けば、男女は等しく社会で活躍している。そのため、女性の知り合いも相当数に上るのだ。 その中で、特にある分野で突出した才能を開花させている女性たちに徹底的に話を聞き、『「北京女性」24人の肖像』(メディアタブレット刊、2015年)として電子書籍にした。その内訳は、以下の通りだ(年齢は当時)。 1:「中国の女ピカソ」と称される彫塑芸術家(43歳) 2:双子の美人漫画家(22歳) 3:太極拳世界チャンピオン(34歳) 4:北京のカリスマ美容師(26歳) 5:売れっ子ファッション・デザイナー(33歳) 6:真冬生まれのピアニスト(27歳) 7:毛沢東かぶれの実業家(48歳) 8:テレビ司会者・プロダクション社長(42歳) 9:スーパー家政婦(40歳) 10:父親譲りの敏腕弁護士(35歳) 11:真珠で当てた雑貨店経営者(26歳) 12:大型カラオケ店ナンバー1ホステス(23歳) 13:秘書4人を使うマンガ雑誌社社長(45歳) 14:モンゴル族スーパーモデル(23歳) 15:月収75万円のマッサージ師(23歳) 16:仏系高級ホテルマネージャー(26歳) 17:人気ワインバー経営者(26歳) 18:過去も未来もない高級コールガール(? 歳) 19:北京五輪で大活躍したスポーツカメラマン(30歳) 20:天安門事件の元活動家の著名翻訳家(47歳) 21:パンダにはまった美人絵本作家(25歳) 22:東日本大震災を取材した国際ジャーナリスト(32歳) 23:日本のコスプレに身を固めたロリータ娘(21歳) 24:日本育ちの警備会社取締役(29歳) 経営者から芸術家、売春婦まで網羅した。各界の第一線で活躍する中国人女性に興味がある方には一読していただきたいが、とにかくパワフルの一語に尽きる。 一度、中国で通訳を担当した直木賞作家の渡辺淳一氏が、生前しみじみ語っておられた。 「北京でも上海でも、中国人記者たちが私の話を聞きたいと言って、断っても断ってもホテルの部屋の前で、深夜だろうが早朝だろうが張り込んでいる。しかもその記者たちは、ほぼ全員女性なのだ。 中国人女性は、何とたくましいのだろう。今度生まれ変わったら、ぜひ中国人女性と恋愛してみたいものだ」 そんな中国人女性の最新型が、「白蓮花」もしくは「緑茶婊」なのである。「九〇後(ジウリンホウ)」(1990年代生まれ)や「〇〇後(リンリンホウ)」(2000年代生まれ)の女性たちだ。 彼女たちの母親は、私が数多接してきたパワフルな世代である。鉄道も走っていないような僻地から出てきたり、貧困から這い上がってきた女性も少なくなかった。 ところがいまの若い女性は、ほぼ全員が一人っ子である。おまけに、両親プラス両親の両親という「6人の親」に傅かれて育った「小公主」(皇帝の娘)たちだ。 つまり、母親のパワフルなDNAに、「贅沢三昧育ち」という新味が加わっている。言い換えれば、その分「愛嬌の面の皮」が厚くなっているのだ。 コロナ禍で、ここのところ訪中できないので、「白蓮花」「緑茶婊」のイメージは分かっていても、実感が湧かなかった。ところが先日、図らずも東京で対面することになった。 上海の友人から突然連絡が来て、「まもなく二十歳になる娘が東京の日本語学校に通うことになったのでよろしく頼む」と言う。「食事くらいいつでもご馳走するよ」と返事したら、数日後にそのお嬢さんからメッセージが届き、彼女の日本語学校近くのホテルのカフェで、夕刻に待ち合わせた。 上海の高校を卒業してそのまま東京へ出てきたそうで、笑顔が愛くるしい。上海にいるごっついオヤジとは似ても似つかず、「目の中に入れても痛くない娘」とはこういう女の子を言うのだろうと思った。 「それで夕食は何をご馳走しようか」実は私は、そのホテル近くにある行きつけの庶民的な定食屋を考えていた。 だが、彼女は自分のスマホを見せながら言った。「今日はこのお店に行きたい!」 何とその地域の最高級和牛しゃぶしゃぶ店で、一人当たりの予算額は「1.5万円~2万円」となっている。私はしばし、スマホの画面と愛くるしい顔を見比べながら、負けてしまった。「ではそこへ行こう……」 彼女の食べること、食べること。何と肉を4人前、お代わりして食べた。しかもその間、スマホばかりいじっていて、私との会話はほとんどない。そして別れ際にこう告げた。 「来月は私の誕生日なの。誕生日にまたこの店に来たいわ。友達も呼んでいい?」 彼女こそ、絵に描いたような「白蓮花」「緑茶婊」だった。 思えば現在の中国では、結婚適齢期の女性は男性より約3000万人も少ない。つまり、かつてない女性上位社会が到来している。新種の「蓮」や「緑茶」を相手にしなければならない中国男児たちのため息が聞こえてきそうだ。
近藤 大介(『現代ビジネス』編集次長)