皮膚がんの原因になることも...日本人が陥る「温水洗浄便座への依存」
出口の便秘の究極が「糞づまり」
出口の便秘→鈍感便秘(便意を感じない便秘)という負の連鎖が続いているおしりでは、便がどんどん大きな塊となっていきます。 その先に起きるのが「便栓塞」、いわゆる「糞詰まり」という疾患です。おなかが張って痛くなり、ひどくなると食欲がなくなり、吐き気をもよおします。強い便意がきても、激痛で排便が困難になることもあります。 そうした症状を自覚できたらまだいいのですが、大きな硬い便をすり抜けて新しくできた軟らかい便が毎日少しずつ出る人も。そういう人は、便栓塞はもちろん、便秘にすら気づいていないので、後々、とってもやっかいなことになります。 便栓塞になるほど肛門で"成長"した出残り便に、通常の下剤や浣腸は効きません。薬を使っても硬くなった便の表面を溶かす程度で、塊を出すことはできないのです。 しかも、硬い便が肛門を傷めるために排便を我慢するようになり、出残り便はますます大きくなっていきます。すると直腸のセンサーがマヒし、便意もますます起こりにくくなります。 こうなると心配なのは、便による圧迫や刺激によって直腸の内壁に潰瘍をつくったり、腸閉塞を起こしたりすること。単なる「糞詰まり」と簡単に考えず、受診して「摘便」してもらうことが大切です。
痔主の多くに共通しているのが出口の便秘
肛門の疾患の中でももっとも多い「痔」は、人に相談しづらいためか、多くの人が勘違いや間違った思い込みで症状を悪化させています。 痔とは、「肛門やその周辺に起きる良性疾患の総称」で、肛門に生じるトラブルのうち、がん以外のすべてのものを指します。肛門にかゆみがある「肛門そう痒症」や、温水洗浄便座での洗いすぎによる「温水便座症候群」なども広い意味で「痔」に含まれ、日本人の3人に1人が"痔主"経験者といわれるほど身近なものです。 そして、さまざまな症状がある中で、"痔主"の多くに共通しているのが、出口の便秘です。「痔は、便秘の結果なるもの」と思っている人が多いようですが、1週間排便がなくても「おなかの便秘」の人は痔になりません。 反対に、診察に訪れる"痔主"の9割以上が毎日排便があり、そういう人も診察すれば必ずといっていいほど出残り便が確認できます。よく、「うちは親も痔で家系だから」「座り仕事だから仕方がない」と言う人がいます。 しかし、痔になりやすい体質や仕事があるわけではなく、痔は「排便の結果」です。間違った排便を正さずに投薬や手術をしても、症状をくり返すだけ。痔の改善には原因となった排便を正すことが必要です。
佐々木みのり(大阪肛門科診療所・副院長)