SNSが生み出す「空気」と向き合うには? 近現代史研究者・辻田真佐憲が語る「65点」のすすめ
SNSは空気や同調圧力を可視化・強化する装置
ーー空気を作るということにおいて、メディアだけでなくSNSの役割が大きくなりました。この変化についてはどうお考えですか? 辻田さん: 山本七平の『「空気」の研究』という名著もあるほど、昔から空気が日本社会に大きな影響を与えています。ただ、近年はやはりSNSの存在がかなり大きいです。 (※山本七平:戦後、独自の視点で日本人について論じた評論家) 例えば、私はずっと五輪に関してネガティブな意見を持っていたので、SNSで一貫して同じことを言い続けていました。ところが、SNS上での反響はそのときどきで違うわけです。五輪に対して否定的な世の中のときは賛同する意見が強い。しかし、リオ五輪の閉会式での安倍マリオに対して否定的な投稿をすると、「楽しめないかわいそうなヤツだ」と言われたりするわけです。 つまり、SNSはまさにそういった同調圧力や空気みたいなものを可視化する装置になっているのです。自分が投稿したことに対して否定的なリプライがたくさん来ると、すごく嫌な気持ちになるので、「そういうことを言うのをやめよう」「考えを変えよう」という気分になるかもしれません。SNSは、何か自由に意見を発信する装置というよりも、同調圧力や空気を強化してしまう装置として機能しているのかなと思います。 ーーSNSを使って誰もが空気を支配できるような状況は、どんな変化やコミュニケーションをもたらしていると思いますか? 辻田さん: これは現代のSNSに限った話ではありません。歴史をひもとくと、過去にも同じように誰もが空気を支配できるような状況がありました。例えば、戦前の状況を想像してみてください。当時、太平洋戦争開戦に私が反対していたとします。しかし、いざ開戦すると日本がどんどん勝つわけです。となると「日本軍が勝って嬉しくないんですか?」と言われるようになる。でも「そもそも自分は開戦反対だし、この後どうなるか分からないじゃないですか」と懸念を示すと、「非国民だ」と言われる。実際、戦争で悲惨な目にあって、開戦に反対していた方が正しかったということになるのですが、開戦当初の盛り上がった雰囲気の中ではむしろ非国民みたいな扱いになってしまうのです。 歴史のそういった参照項を引き出すことで、SNS上の空気に対してちょっと冷静になってみようと思える。そういう役割を果たすのが歴史です。だから今回の五輪でも「日本代表が金メダルをたくさん獲って嬉しくないのか」と同調圧力を使うのはちょっと危ないんじゃないかと、一歩立ち止まって考えてもらいたいんです。