「濡れ場と食事シーンは描き方が近い。だけど……」人気拡大中のBLマンガ家が“しない”と決めた表情の描き方
ガッツリ濡れ場と食事シーンは盛り上げ方が近い?
――現在連載中の『やたらやらしい深見くん』は、自意識の高いナルシスト男・梶と、モサイようで脱いだらエロい天然男子・深見くんの“いじっぱりBL”ラブコメディです。松本先生にとっては、初のベッドシーンありの本格BL作品ですね。 ベッドシーン、不安もありましたが、意外と描けたかも……? と我ながら思っています(笑)。もともと身体を描くのは好きなんですが、絡んだときに2人の足がどこの位置でどんな形なのか――みたいな画的な部分が難しくて。「BLの描き方」という本を買ってきて、人形でポーズを作って研究しました。 描いてみてわかったんですが、ベッドシーンってリズムが大事。顔のアップばかり連続しないようにカメラワークを変えて。見せればセクシーになるものでもないから、見えてる部分と隠れてる部分のバランスを探りながら、パズルみたいに組み立てていく。 ――描いてる方は極めて冷静な、職人的な世界でもあるんですね。 ベッドシーンって実は食漫画と似ているところがあって、ストーリーの流れや盛り上げ方みたいなところが、すごく似てるんです。
食マンガもBLも……「抑圧と開放」を描きたい
――どんなところに共通点があるのでしょう? たとえば食漫画だと、まず料理があって「わあ、おいしそう!」。そして「どんな味がするのかな?」という期待感。そこから早く食べたいというワクワク感やじりじりした感情を描いていく。 それはエロも一緒で、あの人はどんな表情をするんだろう? あの人が欲しい、という感情を描くところから始まる。そこから触れ合う感動や驚きがあって、終わってどうだったのかを反芻する。その一連の流れはほぼ一緒だなと。私も実際に描いてみてびっくりしました。 ――確かに、食もBLも、いきなり実食シーンだけを見せられてもそそられない。その一連のドラマにこそロマンがあるんですね。 「食」も「性」も、読み手がカタルシスを感じるポイントは「抑圧と解放」だと思うんです。深見くんはいろんなことを我慢して孤独に生きてきたけれど、梶と出会って初めて自分を開放する喜びを知った。梶も実はさびしさを抱えた人で、それを埋めるためにいろんな人と遊びまくってきたけれど、深見くんと出会って初めて心を許す喜びを知った。 だから、BL=エロい行為を描きたいわけじゃない。抑圧を抱えていた人が誰かの前で心を開放する、そういう生の喜びみたいなエロスを描いていきたいですね。 松本あやか(まつもと・あやか) 北海道在住。美容師など複数の仕事を経験した後、20代前半でマンガ家としてデビュー。著作に『チア男子!! 』原作/朝井リョウ、『BABY BABY BABY!! 』(ともに集英社)、自身の地元を舞台にした『札幌乙女ごはん。』(Dybooks)など。現在コミックフェスタで『やたらやらしい深見くん』(既刊2巻)を連載中。 Instagram:@matsumoto_ayaka_info 『三ツ矢先生の計画的な餌付け。』公式TVドラマ公式ビジュアルブックも発売! ぶんか社 BLスクリーモ
井口啓子