大規模停電が起きたら? 異常事態を生き抜く家族の姿 │映画「サバイバル ファミリー」
浮き彫りになる家族間の平凡な軋み
一方、スーパーではレジが機能しないために算盤で計算が行われており、不測の事態に備えて食料などを買いに来た人々が長い列をつくる。夜には、ローソクの灯りの下で会社から持ち帰った仕事をしようとする義之と、都市のすべての光が消えたお陰で見えるようになった天の川にしばし見惚れる光恵。突然の不便な生活に、いつも以上に内にこもってしまう賢司、不満と苛立ちを隠せない結衣。 それぞれの気質や性格と、前からわずかながら潜在していた家族間の平凡な軋みが、「異常事態」の中でだんだんと浮き彫りになっていく。この作品は「異常事態」そのもののリアルさよりも、その中を生き抜く家族の変化に重点を置いていると言えるだろう。 ■弱者の生死を分けるのは? 東京の人々の大脱出、大移動が始まって、これに”乗じる”人々も出てくる。スーパーやドラッグストアから飲み物と食品が消える中、水のペットボトルに数千円の値段をつけて店頭に出す店主。食べものとの物物交換を始める強気な米穀店の女主人。ひっそり営業していたラブホは、ベッドの提供だけで一人一泊3万円。真っ暗な日本坂トンネルを潜っていかねばらない通行人を、高額料金で案内する老婆。 ギリギリの状況の中で、自分が生き残るために他人から搾取せざるを得ない人間の一面が垣間見える。同時に、平常時に余裕のある人が異常事態でも変わらないとは言えないし、弱者が必ずしも弱者のままでいるとも限らないという事実も見えてくる。 東京から西に向かう大勢の人々の「歩道」と化した東名高速道路。サービスエリアはさながら難民キャンプの様相だ。飲み水の尽きた家族から「水を分けて」と懇願されても、自分たちを守ることに必死な義之は断らざるを得ない。そのペットボトルを夜中、別の男に盗まれて追いかけた賢司は、それが乳児の粉ミルクを溶かすために使われているのを目撃し、黙って引き返す。 この場面は、まだ家族がマンションにいる頃、エレベーターが止まったため階段を登り降りしなくてはならなくなっているにも関わらず、義之と光恵が見過ごしてしまった高層階の独居老人が、数日後あっさり亡くなってしまうというエピソードと対応している。 救いを求められない弱者の生死を分けるのは、ほんの少しの他人の善意と偶然だ。