非核の願い宿る「折り鶴バッジ」、製作の半世紀に幕 福島原発事故で工場閉鎖…広島サミット、核廃絶の切望に逆行も
原爆がもたらした非人道的被害に命懸けであらがう、そんな被爆者たちの心の実態が被団協の調査で明らかになっている。1985~86年、全国の被爆者ら1万3千人超を対象に行った大規模アンケートの綿密な分析結果だ。「われら生命もて ここに証す 原爆許すまじ」。東友会の慰霊碑も、被爆者の思いをそう刻む。 「ノーモア・ヒバクシャ」。1982年の国連軍縮特別総会では長崎の被爆者、山口仙二さんが七宝の折り鶴バッジを胸に核廃絶を世界に訴えた。このバッジもフタバ社製。「核を決して許さない」。バッジに刻まれた被爆者たちの思いは2021年、核兵器禁止条約の発効に結実した。核の保有、使用、使用の威嚇などを全面的に違法化した初めての国際法だ。制定に向け市民が大きな役割を果たしたこの条約の交渉では、米国などに同調し条約に背を向け、欠席した日本政府代表の席に「あなたがここにいてくれたら」とのメッセージが記された折り鶴が置かれたこともある。
▽「ヒロシマ」で反発 G7首脳が初めて被爆地に集まった5月19~21日の広島サミットに向けて、政府は折り鶴も多用し核軍縮をアピールした。原爆慰霊碑に向かい黙とうする首脳らの姿が、核軍縮の機運につながるかもしれないとの識者の声もあった。だがG7が安全保障の要とする核抑止は「敵への核の脅し」にほかならない。「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」と称してG7が発表した声明は、ロシアのプーチン政権による核の威嚇を非難、中国の核戦力の不透明性を問題と指摘し、北朝鮮やイランの核開発も批判。一方、米国をはじめG7陣営の核は防衛目的として正当化した。核軍縮の衣で核武装のよろいを隠すようなG7首脳のメッセージは、「核と戦争を否定し続け」(平岡敬・元広島市長)、平和の象徴としての「ヒロシマ」をつくり上げてきた被爆者の活動の歴史に逆行しており、大きな反発を呼んだ。 広島サミットでは、地球の北側に偏るG7に対し、アフリカや中南米、東南アジアなど南側に位置、温暖化などの問題に直面する新興国や途上国などの「グローバルサウス」との関係強化が掲げられた。だが「広島ビジョン」は、グローバルサウスの多くの国が支持し、被爆者が日本の加入を求め続けている核禁止条約には全く触れなかった。岸田政権が防衛費を大幅に増額し「新しい戦前」の気配が強まる中、政府が唱える「核なき世界」のかけ声と、核廃絶を切望する被爆者たちとの距離も広がる。政府はまた、五つの法改正をまとめた不透明な「束ね法案」で原発回帰を進め、東電福島第1原発事故以来の政策転換を図ってもいる。