シンガー森口博子が、「50代ビキニ姿」でSNSを沸かせたワケ
そして、リード曲である、テレビアニメ『みゆき』のエンディングテーマ#1『想い出がいっぱい/with 鳥山雄司&神保彰』の収録も、とある理由から、なかなか前に進めなかったそうで……。 「当時、中学生の私は、歌詞の意味をあまり考えずに口ずさんでいました。でも、大人になって聞き返すと、その意味が頭にすっと入りこむんです。何と言っても阿木燿子さんの歌詞が圧巻。 『時は無限のつながりで/終りを思いもしないね/手に届く宇宙は 限りなく澄んで/君を包んでいた』 ピュアな中学生の頃、時間は無限だと思っていたんですけど、大人になると、すべてのものは有限だということを知ってしまうんです。そしたら、過去や未来、時間のすべてが愛おしくて、これからの時間はさらに尊いって思ったら、キー合わせやオケ録りでも涙が止まらなくなってしまったんです。 若い頃というのは可能性の塊ですよね。それを阿木さんは『手に届く宇宙は限りなく澄んで』と表現された。キラキラした時代を思い出します。大人になると、色々とよどんで見えてしまう時もありますからね(笑)」 さらに森口さんは、この歌詞に自らの来し方を重ねていく。4歳で歌手を目指し、卒園文集にも「歌手になる」と意思を表明。この夢に向かって突き進むなか、デビュー前には数えきれないほどのオーディションに落選する。なかでも特に忘れられないのが、映画『アイコ十六歳』のオーディションだという。 「福岡では2名が選ばれたんです。それが、富田靖子さんと私。芝居と歌の審査があって最終的に靖子ちゃんがアイコになりました。当時、落選して肩を落とす私に“君は女優ではなく、歌手のほうが向いているよ。うちの事務所の歌手のオーディションを受けてみては?”と優しく声をかけて下さった、オーディションの主催であった芸能事務所アミューズの現会長でした」 森口さんの記憶に深く刻まれているアミューズとの縁。そして、この『想い出がいっぱい』を歌ったデュオ、H2Oも当時、同社の所属だった。その後、同社のオーディションに残念ながら落選してしまう。 「当時は、合格したらH2Oの後輩になれると思ったものですが、結果的にそこでアミューズとのご縁は生まれなかった。ただ、数十年前に夢破れた私が、令和の時代に縁があってこの曲をカバーできた。当時思っていたものとは違う形で夢を叶えることができたと思うと、“思い入れがいっぱい”(笑)。そうした過去も、私がこの曲で思わず涙してしまう理由のひとつです」 確かに、これほどの経緯ならば、誰も森口さんの涙は止められない。とはいえ、マイクの前に立つたびに涙してしまっては録音ができないと、なんとかスタッフ一同で、森口さんの感情を“オン”にしないよう注意しながら、気を逸らしながら、慎重に録音を敢行したのだそう。 「ファンの方たちも、そんな私の背景をよくわかってくれています。イベントやコンサートでは、名曲の素晴らしさと色んな思いからか先にファンの方が涙してしまうこともあるんです」 最後に、『ちびまる子ちゃん』オープニングテーマ、#5『ゆめいっぱい/with 鳥山雄司&柏木広樹』についてのアレンジ共有の逸話も、“森口節”全開だ。 「シリーズ1の時にボサノバにアレンジした曲があったんですがバンドのメンバーとイメージを共有するのに私が一言“紅茶飲料のCMソングのイメージ”で、と言ったら、みんな“OK、了解”て(笑)。結果、見事に一丸となってイメージ通りだったんです(笑)。そのパート2的な仕上がりに。鳥山雄司さんのギターと柏木広樹さんのチェロと3人で会話しているような素敵な世界になりました」」 こうした誕生エピソードも踏まえながらアルバムを聴き込めば、さらなる味わいが生まれることは間違いないだろう。