世田谷パブリックシアター2024年度はノゾエ征爾演出、チャペック作『ロボット』など
世田谷パブリックシアターの2024年度ラインアップ発表会が2月19日(月)に開催され、芸術監督の白井晃をはじめ、各上演作品の演出を務める橋本ロマンス、野上絹代、ノゾエ征爾、國吉咲貴、桐山知也が出席した。 【全ての写真】世田谷パブリックシアター2024年度ラインアップポスターほか 2022年から同劇場の芸術監督を務める白井は、2020年からのパンデミックがようやく収束しつつある状況やこの4年による舞台芸術を取り巻く環境の変化、そしていまなお戦争が続く世界情勢などをふまえつつ「『私はこの世界とどう向き合うのか?』ということを根底に流れるテーマとしてプログラムしました」と語る。 5月から6月にかけてシアタートラムにて、エンダ・ウォルシュ作の『Medicine メディスン』を白井の演出で上演。映画『ONCE ダブリンの街角で』の舞台版でトニー賞ミュージカル脚本賞に輝いたウォルシュの作劇で21年にイギリスで初演され絶賛された本作。病院らしき施設を思わせる空間を舞台にした作品で、これまで『バリーターク』、『アーリントン』と2作のウォルシュ作品を演出してきた白井はウォルシュ自身の「我々が弱者をほったらかしにしておいたらどうなってしまうのか? ということを描く」という言葉を紹介。田中圭、奈緒、富山えり子が出演する。 7月には気鋭の振付家・橋本ロマンスが演出を務め、古代ギリシャの哲学者プラトンの対話篇「饗宴」をモチーフにしたパフォーマンス公演『饗宴/SYMPOSION』を上演する。プラトンの「饗宴」では、詩人や知識人が“愛(エロス)”について演説を行なうが、橋本は特権性を持った知識階級の男たちが語る愛を「批判的に見ている」と語り「2024年の東京で行われるなら、どんな人がいるべきで、どんな愛が語られるべきなのか?」と問いかける。さらに昨年10月7日以降、パレスチナを巡る情勢に接してアーティストとしての在り方を思案してきたと明かし「周縁化、透明化されている存在を示していくことにアーティストとしてのリソースを使っていきたい」と自らの思いを口にする。 子どもと大人の垣根なく芸術に触れる機会を提供する「せたがやアートファーム2024」では落語からノンバーバルのパフォーマンスまで様々な演目が上演されるが、そのひとつとして、劇団「快快」の野上絹代が、別役実作の3編の童話を元に作り上げた音楽劇『空中ブランコのりのキキ』が8月に上演される。 10月から11月は、白井の演出でブレヒトの代表作『セツアンの善人』を上演。ほぼ同時期にシアタートラムではノゾエ征爾がチェコの作家カレル・チャペックの代表作を潤色・演出する『ロボット』を上演する。ノゾエは「ロボットが人間社会に侵食していくことがあたかもよくないことのように描かれがちですが、必ずしもそうと言い切れない部分があると思います」と語り「人間の愚かさを描きたいわけではなく、その先――大きな課題を突き付けられている」とアレンジへの意欲を口にした。 この他、次代を担う若い才能の発掘と育成を目的としたシアタートラム・ネクストジェネレーション vol.16として、國吉咲貴が率いる「くによし組」による『ケレン・ヘラー』を12月に上演。また白井や野村萬斎、蜷川幸雄、サイモン・マクバーニーなど多くの著名な演出家の下で演出助手を務めてきた桐山知也の演出で、イギリスのサイモン・スティーヴンスの2本の衝撃作を同時上演する『ポルノグラフィ PORNOGRAPHY/レイジ RAGE』 を2025年2月から3月に上演する。 この他、カナダのケベック州発のサーカス・カンパニー「マシーン・ドゥ・シルク」や「ル・グロ・オルテイユ」、北欧の現代サーカス・カンパニー「サーカス・シルクール」、ドイツのマインツ州立劇場所属のコンテンポラリーダンスカンパニー「タンツマインツ」などパフォーマンスを中心とした海外のカンパニーの招聘も予定されており、幅広い演目が楽しめそうだ。 取材・文:黒豆直樹