「金魚すくい」はスポーツだ!伝来300年の大和郡山、世代を超えて白熱 道場の門下生は400人、街に根付く金魚の文化
会場が熱気に包まれる中、無数の金魚が水槽の中を涼しげに泳ぐ。白い和紙を張ったポイを構えた参加者らが見つめ、開始の合図を待っていた。周辺でおそろいのTシャツを着た人たちが見守っている。ピーッというホイッスルと同時に、水槽に向かって腕が伸びる。ポイにすくわれ、跳びはねた赤い金魚がきらりと光った。 【動画】水鉄砲バトル思わぬ人気 大人も子もびしょぬれ
金魚有数の産地として知られる奈良県大和郡山市。江戸時代に金魚が持ち込まれてから今年で300年を迎えた。毎年夏に開かれる全国金魚すくい選手権大会は29回目。そこには競技として金魚すくいに取り組み、その魅力を伝える人たちがいた。(共同通信=伊藤光雪) ▽全国で「唯一の道場」 大和郡山市には、金魚すくいの道場「こちくや」がある。道場主で土産物店を営む下村康氏さんは、第10回大会の団体の部で優勝した実力者だ。道場を設立して以来、多くの競技者を全国大会に送り出してきた。 金魚すくいの魅力は「すべての世代が一緒の土俵で競技できること」と語る。師範は6人で、7歳から82歳まで415人の門下生が所属する。道場の大切な教えは「あいさつと礼儀」。道場と名乗るのは、全国で唯一だという。精神も鍛えてほしいという思いから、愛好会や同好会ではなく、道場と名付けた。 ▽人生初の金魚すくい、記録は1匹 全国大会を直後に控えた8月上旬、道場を取材するため訪問した。競技としての金魚すくいとは一体どのようなものかを知りたかった。 大会には厳密なルールがたくさんある。肘を水に浸してはいけない、壁を使ってすくってはいけない、開始前に水槽に身を乗り出してはいけない…。中でも注意すべきは、ポイを持つ片手のみを使い、すくった金魚をいれるボールの移動も同じ手で行う点だ。
私は人生初の金魚すくいに挑戦した。緊張しながらポイを水につけ金魚に近づける。水槽の上からみるよりも動きが素早い。光の屈折の影響か、思った以上に水槽の深い場所を泳いでいる金魚を追ったが、ひらりとかわされる。金魚に手を伸ばした瞬間、ポイが破けた。記録は1匹だった。 ▽いつかオリンピックの競技に 「お好み焼きを焼いたことある?」と下村さんが声をかけてくれた。金魚の腹の下にポイを入れ、乗ったら金魚の動きに従ってポイを泳がせ、お好み焼きをひっくり返すようにすくうという。 もう一度ポイを水に入れてみる。教わった通り、金魚の下にポイを動かし勢いよく水面に上げると、破けてしまった。「それじゃあ、だめだよ。ポイは横に移動させないと」。初心者にまず教えるのは、ポイが破けない動かし方だ。 プラスチック製の枠に和紙が付いているため、面で水面に降ろすと、水圧で破けてしまう。縦か斜めに水面にいれ、水平に動かさなければならない。1回ポイを水につけるたびに1匹救うのが理想で、長く水につけすぎないこともコツだ。