『きもの再入門』著者、山内マリコさんインタビュー。「着物愛に立ち返る、再入門の軌跡です」
「着物愛に立ち返る、再入門の軌跡です」
20代の終わりに訪れた貸衣装店で、畳を覆う振り袖の色彩に『グレート・ギャツビー』のワンシーンを幻視した山内マリコさん。その後、ふつふつと溢れ出すアドレナリンに導かれるように手に取った『きもの手帖』によって憧れを募らせ、衝動に任せて着物を購入。母と祖母の着物も譲り受け、着付け教室に通って師範の免状を得る。 「そんな猛烈なまでの着物熱は仕事と生活の忙しさにかまけているうちいつしか冷め、気づけば十数年。着物を着る撮影があってもスタイリストさんに着付けをお願いするくらい、自信をなくしていました。あんなに増えた着物も小物も箪笥の中で眠るばかりで、これじゃあもう着物が趣味だなんて言えない……としょんぼりしていたときに、この本の編集をしてくださった方に出会ったんです」
ほぼ初対面ながら「着物の本を作りましょう」と誘う編集者に、「はい!」と答えていたという山内さん。作家になって12年。初めて着物と自分というテーマにしっかり向き合い、みっちり書き綴ったのが『きもの再入門』だ。 「私はどんなふうに着物とかかわりあいながら過ごしてきたんだろう、と過去を振り返るうちに10代、20代、30代の頃の感情の揺れや動きが蘇ってきて、どんどん書き進めていきました。着物をテーマにするからには、昭和一桁生まれの祖母と、団塊と呼ばれる世代の私の母、その娘である私との関係を起点に、着物文化の隆盛や途絶という歴史にも分け入ってみたいと考えました」
このエッセイが、着物と新しい関係を結ぶきっかけに。教えてくれたこと。
装いの文化と社会を見る目は、そのまま自らを省みる視点にも。 「なまじ師範を取ったために、いわゆる〝着物警察〟を内面化しているという自覚があり、価値観のアップデートに焦ることもありました。わけもわからず散財したときのノートや、禁断の収納技を公開するなど、個人的なエピソードも交えながら、着物をとおして社会を見てみたかったんです。着物エッセイの読者は、年齢にかかわらず趣味が落ち着いている方が多そうだと気づいてからは、真摯に真面目に書いてもいいんだ!と照れる気持ちを払拭できました」 エッセイを書くことで、着物との関係が新たに結び直されることになる。向き合いたい、ときめきたい、楽しみたい、という思いは作家を京都『紫織庵』へ向かわせ襦袢を誂えさせ、「菱屋カレンブロッソ」の草履をポチらせ、木綿を求めて会津へと旅させる。 「連載を重ねるうちに着物を着たいという気持ちがどんどん蘇ってきました。自分にはっぱをかけるように着物を着て外に出ることを繰り返すうち、着付けをするのも怖くなくなってきたんです」 迷いも後悔も期待も、知らなかったことに触れる楽しさも。着物への愛情がどこまでもフラットな言葉に移し変えられ、まるで友人の話を聞いているかのように、読み手のうちに響いてくる。