42歳のちゃんこ長、元横綱鶴竜の新部屋を支える「鋼」の絆 寺尾からの忘れられないひと言「前田がいたら大丈夫」
四半世紀近くも力士を続ける鋼は、角界において必要不可欠な精神をぶつかり稽古に例える。「当たる人がいれば、胸で受ける人がいる。だから稽古になる。どんなにすごい力士でも、一人では絶対に強くなれない。相手がいるから、自分がいる」。人という字は支え合うことで成り立っている。相手方を常に思いやる気持ちこそが、円滑で強固な人間関係を築く鍵だ。一般社会にも通じるヒントをもらった気がした。 ▽鋼の結束力「前田さんとは死ぬまで一緒」 「鋼」という変わったしこ名は20代最後の年から名乗っている。工業高校の機械科で学んだ経験から「刀の元は玉鋼。鋼を鍛えれば刀の切れ味も増す。刀を研ぐようにして気持ちを研ぎ、鋼のメンタルを目指す意味を込めた」と自ら考案した。 鋼を名乗る前は、逆鉾と寺尾の長兄の元十両鶴嶺山(故人)からしこ名を譲り受けていた。かつての大相撲を盛り上げた「井筒3兄弟」はこの世を去ったが、それぞれの立場から受けた薫陶は忘れない。井筒部屋では地位や職種に関係なく、力士も行司も呼び出しも床山も、みんなでちゃんこ鍋を囲んだ。「相撲部屋は家族」という師匠の方針だった。だから鋼も「めりはりがあって、アットホームで、親しみやすい部屋になってほしい」と願う。
独立後の音羽山親方は「前田さんがいれば大丈夫」が口癖になった。弟子というより相棒のような存在を「親兄弟よりも長く一緒に過ごしてきた。これからも、ずっと一緒。死ぬまで一緒だから」と全幅の信頼を置く。2024年3月の春場所で番付に載る音羽山部屋所属力士は序ノ口を含めて2人。部屋頭でもある鋼は「早く自分を追い抜く人が出てきてほしい。若い力士が10人くらいになったら引退して、また別の立場で支えたい。新しい部屋を持つという親方の夢が現実になった。大変だけど、そのことがうれしい」と感慨に浸った。 部屋から見える東京スカイツリーを背景に記念撮影すると、手を握り合った2人はとびきりの笑顔。外の寒さも忘れて心が温かくなった。できたばかりの相撲部屋が「鋼」の結束力で新たな歴史を紡ごうとしている。