42歳のちゃんこ長、元横綱鶴竜の新部屋を支える「鋼」の絆 寺尾からの忘れられないひと言「前田がいたら大丈夫」
2023年12月27日に独立した大相撲の音羽山親方(元横綱鶴竜)が率いる部屋には、40歳を過ぎた心強い三段目力士がいる。しこ名は鋼(はがね)。本名は前田一幸さん、愛知県出身の1981年8月生まれだ。師匠よりも4歳年上で、入門は約1年半早い。つまりは師匠の弟子だけど兄弟子でもある。誕生したばかりの音羽山部屋では食事を担当する「ちゃんこ番」を一手に引き受け、新弟子の指導も担う。そこには20年以上も共に歩んできた師匠との「鋼」のような固い絆があった。(共同通信=田井弘幸) 【写真】会場のあちこちで「あの子、すごいな…」の声 新弟子検査から親方衆を驚かせた天才力士
▽ちゃんこ鍋のレパートリーは13種類 東京都墨田区向島の真新しい部屋にある稽古場の奥に進むと、8畳ほどの広さの台所がある。いわゆる、ちゃんこ場だ。音羽山部屋の力士は鋼と新弟子4人。ぶつかり稽古で胸を出した鋼は汗と砂をさっと流し、料理の腕を振るう。 「鍋のレパートリーは自然に増えて、13種類くらいかな。おかずの仕込みは前の晩からやってあるからスムーズ。だいたいは頭の中に入っているので」と涼しい表情で話す。ちゃんこ鍋は塩、しょうゆ、みその定番からカレー、キムチ、特製つけだれの湯豆腐や水炊き、大根おろしを加えたみぞれ風など多岐にわたり、日替わりで力士を飽きさせない。ここにおかずを5~6品そろえ、見るだけでおなかがいっぱいになりそうだった。 ▽風呂場の背中越しで「引退します」 鋼はサッカー部に所属した愛知・大同工高(現大同大大同高)から井筒部屋に入門し、2000年春場所で初土俵。丸くて固太りした体で激しい突き、押しを得意とし、東幕下16枚目まで番付を上げたことがある。三段目優勝を果たした2012年秋場所では、NHKのインタビューで「おいしいご飯を作ってみんなを待っています。今日は暑いので、さっぱりとした鶏の塩ちゃんこにします」と愛嬌たっぷりの表情で答え、師匠の井筒親方(元関脇逆鉾、故人)を大笑いさせた逸話が残る。 音羽山親方は2001年九州場所で初土俵を踏んだ。鋼は、モンゴル出身の弟弟子を「おとなしい子。笑ったら顔がかわいかった」と回想する。下積み時代は一緒にボウリングやカラオケに出かけ、不思議とウマが合った。大関時代から付け人を務め、現役引退の決意は風呂で背中を流している際に「前田さん、引退します。今までお世話になりました」と告げられた。