韓国総選挙で与党大敗も「反日回帰ない」 神戸大大学院木村教授
4月10日に投開票された韓国の総選挙は保守系の与党「国民の力」が大敗し、進歩(革新)系野党「共に民主党」が圧勝した。2022年5月の政権発足当初から少数与党だった尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は一段と厳しい政権運営を強いられる。朝鮮半島研究で知られる神戸大学大学院の木村幹教授に選挙の振り返りと尹政権の対日政策の行方などについて話を聞いた。 【関連画像】与党「国民の力」の議席減で厳しい政権運営を強いられることになった韓国の尹大統領(3月1日撮影、写真:共同通信) 総選挙では共に民主党が定数300のうち175議席(改選前156議席)を獲得。国民の力は108議席(同114議席)に終わりました。3月初めまでは、与党優勢との見方もあったはずですが、何が起きたのでしょう。 木村幹・神戸大学大学院教授(以下、木村氏):3月初め、私も韓国ソウルにいましたが、ここまで野党が躍進するという雰囲気ではありませんでした。(北朝鮮への不正送金の疑いで背任罪などに問われている)共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表には、一定数のアンチ(反対派)がいるし、元代表の李洛淵(イ・ナギョン)氏と対立し、同氏を離党に追い込んだことが批判もされました。とても、ここまで支持が集まるとは思えなかったのです。 転換点になったのは、前国防部長官(国防相)の李鐘燮(イ・ジョンソプ)氏を3月4日にオーストラリア大使に任命したことでした。彼は23年に発生した水害の行方不明者の捜索中に殉職した海兵隊員を巡る捜査に圧力をかけた職権乱用の疑いが持たれていた人物です。この大使人事が世論の強い批判を浴びて風向きが変わったのです。 ●大きかった進歩系の「曺氏効果」 文在寅(ムン・ジェイン)前大統領時代の法務部長官(法相)で、娘の医学部不正入試疑惑で有罪判決も受けている曺国(チョ・グク)氏が、新党「祖国革新党」を立ち上げ、ブームになりました。これも野党の追い風になったのでしょうか。 木村氏:進歩系の支持者たちの中には曺氏の疑惑自体をウソだとする言説があって、「曺氏を救出しよう」という考えを持つ人が結構います。韓国議会は一院制で小選挙区254議席と比例代表46議席で構成しますが、この人たちは比例代表で祖国革新党を支持しました。そして小選挙区では同じく進歩系の共に民主党に票を投じました。 1980年代の民主化運動を知る50代や60代のいわゆる「86(ハチロク)世代」は、進歩系支持者が多いのですが、アンチ李在明で投票を見送ろうとしていた人たちもこうした流れで共に民主党に入れたのではないでしょうか。いわば、曺氏効果が進歩系の票を掘り起こした形です。 野党は、尹大統領の夫人が在米韓国人から高級バッグを受け取ったとか、大統領自身がスーパーの視察時に特売の長ネギの価格を「合理的」と発言して「庶民感覚がない」といった批判も繰り広げましたが、曺氏の効果は大きかったのではないかと思います。