韓国総選挙で与党大敗も「反日回帰ない」 神戸大大学院木村教授
尹政権の対日政策はどうなる
尹大統領の政策はどう評価されてきたのでしょう。 木村氏:選挙前、政府が地方の医師不足解消のために、大学の医学部定員を2000人増やす考えを打ち出し、研修医約8800人が集団で辞表を提出するなど医療界の強い反発を受けるという一幕がありました。これについては政府を評価する声の方が強かったですね。 ただ、選挙前でも議席の6割を野党に占められていましたから、内政でできることは限られていました。かねて問題だった不動産価格の高騰を金融機関の融資規制などで抑制したのが目立つところでしょうか。韓国の基幹産業である半導体の市場が2022年から世界的に停滞したことに重なり、景気低迷に拍車をかける格好になってしまいました。 一方、外交面では米韓同盟の再強化という具体的な取り組みをしました。米軍が17年に移動式陸上配備型ミサイル防衛システム(THAAD)を、北朝鮮の短・中距離弾道ミサイルへの備えとして韓国に配備し、中国がこれに激しく反発するという問題がありました。 中国は、韓国企業の中国での事業に“規制”を加えるなど圧力を強め、文政権はTHAADの追加配備や日米韓の軍事同盟化をしないといった姿勢を打ち出しました。尹大統領は、その方針を撤回するなどカジを切り直したのです。根底には、国民の中国への不信感増大があったのですが……。 日本との関係改善も尹大統領の成果です。これも米国との関係強化と同じ文脈でしょうか。総選挙での敗北は融和的な対日政策の転換にはつながりませんか。 木村氏:世界の中で地位のある「グローバル中枢国」になるというのが、韓国のある意味、悲願です。今、この状況の中で中国やロシアにより接近しても意味はないと考えているのでしょう。 反日への回帰はないと思います。もともと議会で与党は少数派です。その中で大統領の権限で動かしやすいのが外交ですから、その軸を変える必要はありません。唯一あるとすれば、与党内で対立が起こり、尹大統領の影響力が決定的に失われるようなケースでしょうか。