「遺言で遺産相続だけはやめておけ」と社会福祉士が警告、醜さを増した“争族”の実態
● 兄弟姉妹の存在自体が「争族」の原因 仁義なき“老親囲い込み合戦” 従来型の「争族」は、相続権を持つ子どもが複数いるために起きていました。一人っ子の場合は、よほど強欲な親戚でもいない限り、遺産争いとは無縁でした。しかし現代型の「争族」は、老親と一人息子/娘の間でも起きる可能性があります。親がお金に執着していたり、子どもを信頼していなかったりする場合、一方で子ども側に老親を支援する経済力がないような状況では、財産管理という名目で親のお金を不正に引き出す「身内泥棒」のリスクが高まります。 しかし、圧倒的に多いのは“兄弟姉妹間の老親囲い込み合戦”です。介護を名目に親を預かり、説得したりだましたりして貴重品を預かり、親名義の預金口座から勝手に引き出します。さらには、生命保険を解約させて返戻金を取得したり、自分に有利な信託契約や遺言を用意して署名捺印させたり、親の手を握って代筆したりします。疑いを持った兄弟姉妹も同様の行動を取って対抗します。 「そんなまさか」と思うでしょう。しかし家族介護の長期化で心がすさんだり、自身の家計が逼迫していたりすると、親名義の財産に目が向きがちです。普通であれば信じ難いような事態が、あっけなく起こり得るということが、もろもろの相談を受けているとよく分かってきます。
● 不動産・定期預金・有価証券類は 従来型争族に持ち越される 老親名義の不動産については、親を囲い込む間に信託契約を偽装し、名義変更を画策する子どももいますが、さすがにそれはごく一部にすぎません。登記簿に記録が残り、後々ほかの相続人にバレるリスクがあるからです。そのため、現代版「争族」においては、親が生きているうちは普通預金の奪い合いがほとんどです。不動産については、多くの場合、親の死後に従来型「争族」が再度勃発することになります。 親が遺言を残していない場合、遺産は基本的に法定相続通り均等分けとなります。終末療養期間に献身的に親を支えた子どもは、それに要したコスト(寄与分)を請求してくるかもしれません。しかしこれには証拠が必要で、さらに兄弟姉妹すべてが合意する必要があるため、実現は非常に困難です。親としては、介護を頼む際に、適切な金額を前もって渡すべきだというのが私の持論です。 また、兄弟姉妹の中には、「姉貴は(学費、習い事費、留学費、生活費、結婚子育て費、住宅取得費など)これまでたくさんお金を出してもらっているから、その分は差し引かないと不公平だ」といった主張をする人が少なからずいるものです。これを「贈与の持ち戻し」といい、争いが起こる主題として急増しています。相続税対策として贈与税非課税特例を使う親は多いですが、贈与を受けた子ども側のことを思えば、遺言で「持ち戻しは免除する」と明記しておく必要があります。しかし、そこまで対策を講じている人を私は見たことがありません。