「遺言で遺産相続だけはやめておけ」と社会福祉士が警告、醜さを増した“争族”の実態
● 老親の療養コスト負担に 現役世代は耐えられない 現在、日本には約1000万人の認知症患者がいます。身寄りのない人を除き、家族や親族が介護などのサポートを担うことになります。その主な担い手は現役世代の子どもたちです。ご存じの通り、今日では実の子どもであっても、親名義の預金口座から勝手に引き出すことはできません。 建前上は成年後見制度を利用することになりますが、親子ともども他人の管理下に置かれるような状況を望む人はほとんどいません。そのため、現役世代の子どもは、とりあえずコストを肩代わりしながら老親を支えることになります。 問題は、終末療養期間が長期化傾向にあることです。本来なら親の財源で充当すべき医療や介護や生活支援にかかるコストを、立て替え続けるだけの経済的余裕がない現役世代がほとんどなのです。老親に多少なりとも蓄えがあれば、何とかしてそれを使えないかと考え始め、私どもの事務所に相談に来る人も出てくるのです。
● 普通預金で暗証番号が分かっていれば 最悪の事態は避けられる このような場合の標準的な対応は、銀行と個別に折衝し、事情を説明して支店長の判断を仰ぎ、子どもが親名義の預金口座からお金を引き出せるようにしてもらうことです。ここで重要なのは、親の判断能力が完全に失われているとは決して言わないことです。そうすれば、成年後見制度の適用という事態を回避できます。 銀行や支店長によって対応は異なりますが、親子関係を証明でき、キャッシュカードの暗証番号を知っていれば、1日1回のATM操作で最大50万円まで引き出すことが可能です。ただし、1回の引き出し限度額が20万円や30万円に設定されたり、月間で引き出せる回数に制限が設けられたりすることもあります。経験上、信用金庫が最も厳しい傾向があります。なお、定期預金は対応が難しく、銀行側が入院先や療養先に出向いてでも本人確認を行おうとします。老親が認知症であったり、親子関係が良くなかったりする場合などは、どうにもならなくなってしまいます。 普通預金であっても、子どもが暗証番号を知らない場合は引き出しができません。ただし、老親宛ての請求書を窓口に持っていけば、医療や介護に関する明確な請求については、銀行から請求元に直接送金してもらうことは可能です。銀行としては、身内泥棒に配慮して、「何があっても、お子さんの口座への入金だけはしませんよ!」ということなのです。