「アームレスリング」を通した青少年の立ち直り支援に誹謗中傷も… 不良の“たまり場”を「居場所」に変えた男の戦い
「腕大学」開設のヒントは“アメリカでの取り組み”
「僕も何とかして活動を認めてもらいたくて。その時ひらめいたのが、今につながる“公開アームレスリング”です。ヒントとなったのはアメリカでの取り組み。不良のたまり場になっていたバスケットコートに当番制でプロのバスケ選手を置き、朝まで一緒にバスケをする。そうするとたまり場が居場所に変わったというニュースをラジオで知って。なら、それをアームレスリングでやろうと考えました」 九大学研都市駅横のイオンモールに場所を借り、アームレスリング台を持ち込む形で開催しようと考えた。しかし、施設や地域など 、各方面に許可取りをする段階で大反対を食らってしまう。理由はやはり、「街の治安を荒らすな」だった。 「地元での開催を諦めかけていたとき、福岡市役所の生活安全課から『警固公園に防犯を目的とした安全安心センターを作る。場所を貸すので、若者の非行が増えている警固公園の改革のために、何かやってくれませんか』とお話がきました。市役所のバックアップを受ける形で、警固公園での公開アームレスリング大会が始まりました」 毎月第4土曜日の16時から21時にかけて開催される公開アームレスリング。開催を重ねるごとに参加者が増えていき、昨年12月には過去最多となる222人を記録した。 「1年間の参加者の60%が10代。ここ1年は女の子が多いです。いわゆる“警固キッズ”たちですね。『SFDやろ? 何かちょうだい、支援して』と声をかけてくる子もいます。ジムも公開アームレスリングも、未成年の頃から来てくれて今はスタッフとして手伝ってくれている子が多いです」 「もらった恩を返したい」と、小野本さんのもとで更生した少年が荒れている後輩を連れてくることもあるそうだ。 23年間、さまざまな若者たちの悩みや状況を解決するために、複数の団体や行政と連携しながら必要な支援をコーディネートしてきた小野本さん。時には親と子の仲介役となり、社会復帰のためのサポートを行ってきた。今後は「立ち直り支援に関わる平成生まれの若者を育てたい」と話す。 「社会福祉士や精神保健福祉士など、資格と知識を持っている子はたくさんいるんですよ。だけど、現場で直接当事者と関わった経験が少ないから、知恵が出ないんです。僕がいなくなったときのために、平成生まれの人たちに先頭に立って活動していってほしい。そのためにも、彼らに経験の機会を与えていけたらと考えています」
倉本菜生