「研修医の誤診で高校生死亡」と報じるマスコミの罪…岩田健太郎「目の前の事実を正確につかむ思考法」
目の前に起きていることを正しく把握するにはどうすればいいか。医師・岩田健太郎さんは「『結論、根拠、結論、根拠』の話し方を身につければ、自ずと事の本質をつかめるようになる」という――。 【この記事の画像を見る】 ■因果関係をほのめかす不適切な報道 SMA症候群(上腸間膜(じょうちょうかんまく)動脈症候群)をもつ男子高校生が昨年死亡していたことが「医療過誤」の問題として大きく報じられた。記者会見は、6月17日である。得られた情報だけではまだ判然としない部分もあるが、当該医療機関の発表資料によると、入院後の脱水、せん妄などの治療の後、死亡が確認されたという。亡くなられた患者さんの御冥福をお祈りし、ご家族・関係者の皆様にはお悔やみ申し上げる。 ※日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院「過去公表事例」 奇っ怪なのは、報道である。 多くのメディアが本件を「研修医の誤診」で高校生が死亡したと報じた。しかし、救急外来受診の段階では患者の容態は安定しており、「誤診」が死亡をもたらしたとは考えにくい。それをあたかも「研修医が見逃したせいで死んだのだ」と言わんばかりの、因果関係をほのめかす報道は適切ではない。 誤診は望ましくはないが、誤診をしない医者は皆無だ。誤診は一定の頻度で起きる。超一流のバッターでも全打席でヒットが打てないのと同じで、これは厳然たるファクトである。特に、初対面の患者の容態を救急外来で正確に診断することは、ましてや稀な疾患であるSMA症候群であると言い当てるのは、ベテランの優秀な診療医でも困難であろう。 ■医療者とメディアのミッションは同じである そういう誤診が「ある」という前提で、我々医療者は行動する。繰り返しの診療の中で、当初分かっていなかった現象をつかみ取り、最終的には正しい診断に近づこうとする。場合によっては何週間という長い時間をかけてようやく病名が分かることもある。 繰り返すが、誤診は毎日、世界中の医療機関で起きている。これがファクトであり事実だ。その事実を無視し、誤診が「あってはならないこと」であるかのように報じるのは極めてミスリーディングである。その「誤診」が患者の死亡の「原因」であるかのように報じるのはさらに悪質だ。 医療者のミッションは患者に何が起きているかを正確に理解することだ。初診でできなかったとしても、最終的にはそこを目指す。 メディアのミッションも同じなはずだ。本件の本質は明らかに別なところにあるのだが、ジャーナリストたちは事の本質を正確に理解しようとしているだろうか。むしろ、事の本質そっちのけで、センセーショナルな見出しで読者を「煽(あお)っている」だけの、インプレゾンビみたいな連中に堕していないだろうか。猛省を望みたい。