取手市「中3いじめ自殺」10年目の真実に迫る なぜ調査報告書はでっちあげられたのか
偏った調査の果てに
そもそも自殺は、いくつもの要因が複合的に重なって起きるというのが、専門家らの一致した見解である。また警察庁の長期の統計によれば、自殺の原因、動機の上位に挙がるのは、小学生の場合「家族からのしつけ・叱責」。中高生の場合は「学業不振」「進路の悩み」などで、いじめが原因の自殺は実はそう多くない。 従って調査に当たっては、いじめの有無だけでなく、当人の成育歴や家庭環境、精神状態など幅広い要因が検討されるべきだ。ところがこの調査報告書は、いじめや担任教師の問題点など、ほぼ学校内に焦点を絞った内容である。偏った結果になることは目に見えている。なぜこうした調査になったのか? 最初の取手市による調査委員会の委員長だった国士舘大学特任教授(当時)の中込四郎氏は、同委員会が解散した際、記者会見でこう答えている。 「自殺は複雑な要因が絡み合った可能性もあるとして、『さまざまな観点から調査しようとしたが、ピンポイントでいじめについて調べてほしいという遺族と意識のずれがあった』」(茨城新聞2017年6月13日朝刊) ここまでは中立性が保たれていたのだ。だが、県の調査報告書は違った。そのために、教諭は塗炭の苦しみを味わうことになったのである。 福田ますみ(ふくだますみ) ノンフィクション作家。1956年横浜市生まれ。立教大学社会学部卒。専門誌、編集プロダクション勤務を経て、フリーに。2007年『でっちあげ』で第6回新潮ドキュメント賞。他に『暗殺国家ロシア』『モンスターマザー』などの著作がある。 「週刊新潮」2024年10月24日号 掲載
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