コロナ、インフル、風邪などの後に咳だけ長く残るのはなぜ? 受診すべきタイミングは
いつまでなら正常か、そもそも咳とは何かなども専門家に聞いた
風邪をひいた後や、インフルエンザ、RSウイルス、新型コロナウイルスに感染した後、ほかの症状は治まったのに、いつまでも咳(せき)だけ残っていてつらかった経験はないだろうか? あるなら、それはあなただけではない。咳は、体からウイルスがいなくなってから何週間も続くことがある。 「病気を生む顔」になる食べ物とは 画像5点 咳が治らないと言って病院に来る患者が、最初に調子が悪くなったのは8週間も前だった。そのようなことがしばしばあると、米テキサス大学サウスウェスタン医療センターで感染症を研究する内科医のマイケル・シロー氏は話す。「こうした人々からはもうウイルスは検出されません。それでもまだ咳をしているのです」 米国では2023年末から2024年の初めにかけてインフルエンザ、RSウイルス感染症、新型コロナウイルス感染症の患者が急増した。米疾病対策センター(CDC)によれば、呼吸器の不調を訴えて医療機関を受診する患者の数は今も多い(編注:国立感染症研究所のデータによれば、日本ではインフルエンザが2023年8月から12月にかけて増え、新型コロナが2023年11月下旬から増加傾向にある)。 呼吸器ウイルス感染症から回復した人がしつこい咳に悩まされる理由は、まだ厳密には解明されていない。しかし、ウイルス感染が気道の神経に影響を及ぼすしくみについての研究から、新たな手がかりが得られつつある。
そもそも咳とは何なのか?
「咳とは、有害なガスや水、誤嚥(ごえん)した食べ物のかけらなどの危険から気道を守るために起こる重要な反射です」と、英クイーンズ大学ベルファストの呼吸器専門医で研究者のローカン・マクガービー氏は言う。 咳反射は気道を支配する神経によって引き起こされる。これらの神経には、冷たい空気からトウガラシの辛み成分であるカプサイシンまで、あらゆる物質に反応する受容体タンパク質が分布している。受容体が刺激されると、その刺激が迷走神経を介して脳に信号を送り、私たちは咳をしたくなる。 そこから脳は、咳をするかしないかの指令を気道に送り返す。ある程度は意識的にコントロールできる咳もあるのは、この脳を通る回り道があるからだ。 科学者たちは、咳の引き金となるさまざまな刺激を明らかにしているが、呼吸器ウイルスに感染している間や、感染後何週間もたっているのに咳を引き起こす生物学的な詳しいしくみについては、まだ意見が一致していない。 咳が出るのは喉の粘液を取り除くためであることは明らかだ、と思われるかもしれないが、ウイルスが自分をまき散らすために咳反射を引き起こしている可能性もある。実際、多くの感染症では痰(たん)を伴わない「乾いた咳(空咳)」が出る。結局のところ咳が出るのは気道をきれいにするためだったとしても、感染症にかかっている間、私たちの神経が具体的に何を感知して咳を引き起こしているのかは説明できないままだ。 「本当にわからないのです」と、米南フロリダ大学の電気生理学者であるトーマス・テイラー・クラーク氏は言う。「確実にわかっているのは、ウイルス感染は炎症を起こすということだけです」