「だから、私は山へ行く」#26 安藤真由子さん
日本代表選手だったけど競争は好きじゃない
もともと理論立てて考えてトレーニングをすることが好きだったという安藤さんは「自己更新を目指して練習を重ねていたら、自然と結果が出ていた感じでした」と話す。いっぽうで、トップレベルのアスリートとしては、ちょっと風変わり〞な一面もあった。 「じつは試合がぜんぜん好きじゃないんです(笑)。大会やレースの緊張感が苦手だし、だれかを蹴落としてまで1位になりたいとも思わなくて。よく『勝利の意志をもて! 』なんて言われたけれど、『いやいや、楽しいのはそこじゃなくて練習だよね』って」。 そんな安藤さんが本格的に山歩きを始めたのは、大学在学中のこと。「体のことを学びたい」と山本正嘉教授(現名誉教授)の研究室に入ったことがきっかけだった。 「山本先生は登山における運動生理学の第一人者で、高所や低酸素環境下での運動やトレーニングを専門とされる方。当時先生がセンター長を務めていた『鹿屋体育大学スポーツトレーニング教育研究センター』の低酸素室には、山野井泰史さんや三浦雄一郎さんなど錚々たる山の人たち〞も来ていて、体力測定やトレーニングのサポートも行なっていました。先生のもとで学ぶうち、私自身も山に行くようになりました」。 とくに思い出に残っているのは、山本先生と歩いた霧島連山縦走だそう。 「一歩一歩長い距離を歩く感覚がとても心地よかったし、目の前に広がる景色の美しさにも驚きました。なにより、好きなときに登って、好きなときに下りる。そんな自由が楽しかったです」。 だれかと競い合うのではなく、自分と向き合いながら進む。山歩きはきっと、安藤さんの好き〞に合っていたのだ。