石破政権は「アベノミクス」を否定できるか? 経済学者が指摘する看板政策“地方創生”の思わぬ落とし穴とは
今までとは違う地方創生政策になるか
衆院選を経て、まず石破氏が直面するのは、税制に関する課題だと土居氏は指摘する。 「年内では2つの課題が残されています。防衛増税と児童手当を18歳まで拡張したことによる扶養控除の問題です。防衛増税に関しては法人税、特別復興所得税、さらにたばこ税の増税で賄うと岸田政権で決定したものの、2024年末までに防衛増税をいつから実施するかについて決定することになっています。児童手当は18歳まで拡張したことで扶養控除をこの年代でも縮小するのか、という問題が残されています。これも結論を得られていません」 また、石破首相といえば、「地方」への思い入れが強い印象がある。かねて主張する「地方創生」という看板政策も思わぬ鬼門となり得る。 「今までとは違う地方創生政策になるか、がポイントです。コロナ禍で実施された新型コロナに伴う地方創生臨時交付金はコロナ対策という名目でありながら、事実上、紐付きになっておらず、自治体側でどんな予算にも使える交付金になっています。それが兆円単位で地方自治体に配られているのが実状です」 この交付金は2020年度からの3年で18兆円を超える予算が計上されている。 「安倍政権時代から続く交付金は自治体からすると、自由に使える金なので、とても評判がいい。これを超えるインパクトのある政策でないと、自治体にアピールする目玉政策にはなり得ないのではないか。今までは金は渡すけど、その効果は特に検証されず、東京一極集中が是正されるような予算の付け方でもなかった。効果も測定しつつ、地方自治体が歓迎する政策とは何か、ここは難しい課題だと思います」
『いかに財政出動をせずに賃上げを実現するか』
また、石破首相が物議をかもしたのは「法人税増税」「金融所得課税」に言及したことだ。そのため首相就任後は金融市場の反応を気にして、抑制的な発言に終始している。 「法人税の引き上げは実は去年の与党税制大綱でも言及されています。これは石破さんだけが言っているわけではなく、自民党内でも一定の人が同じ考えを持っていて、石破さんはその流れを汲んでいたのではないかと思います。金融所得課税は岸田前首相も就任直前に掲げていましたが、市場の反応を見て、すぐに引っ込めてしまった。現実的に考えると経済界・市場を敵に回すわけにはいかないので、今後、金融所得課税を改めて訴えていけるのか、は疑問に残ります。そもそも、石破さんを支える平将明デジタル大臣ら経済政策にも通じている側近議員らは金融に関する課税強化をすべきではないという立場だと思いますので、金融所得課税に石破さんの強いこだわりがあるとはあまり思えないですね」 では、日本経済を左右する今後の石破政権のポイントは何か。 「ポイントとなるのは『いかに財政出動をせずに賃上げを実現するか』です。そのため、今回の衆院選で保守派の旧安倍派がどこまで議席をとれるかは重要です。財政健全化に振っていくときに、党内で旧安倍派議員が減り、影響力が削がれていくならば、財政健全化に対し、大きな声を上げ、積極財政に陥っていくことはなくなる」 現在、国債など日本政府の債務、いわゆる「国の借金」は約1300兆円と膨らみ続けている。 「石破さんは防災省の創設を提唱しています。日本の災害頻度が高まる中で、このまま政府が借金を重ねていけば首が回らなくなり、肝心の災害の時に財政出動ができないということになりかねません。借金が膨らめば、経済政策の手札も狭まっていくことになる。そうした環境で持続的な賃上げをいかに実現するか。岸田政権からの案件として最低賃金を上げていくというのはその一つですし、ほかにもリスキリングやDX化など労働生産性を高める取り組みを企業に促すような政策も重要です。そこをしっかり取り組めれば、来年の春闘でも賃上げが期待できるのではないでしょうか」
デイリー新潮編集部
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