ついにイーロン・マスクの世界制覇計画が見えてきた…日本メーカー大打撃、価格3万ドル以下の完全自動運転タクシーの衝撃度
トランプ勝利で規制は突破できる
規制に合格するには、安全性を確保しなければならない。 テスラによれば、2023年のFSDの事故率は、100万マイル当たり0.21件で、2022年の0.31件から32%減少した。アメリカの平均事故率は、2023年で100万マイル当たり1.49件だったので、FSDの事故率はアメリカ平均の7分の1程度でしかない( NHK、2024年10月24日「テスラはどこに向かう?自動運転タクシーが大変革の一手なるか」)。 このようなデータがあるとしても、サイバーキャブが規制に合格できるかどうかは、確実ではない。 テスラにとって最大の障害は、規制を突破できるかどうかであったのだろう。 この点に関して、マスク氏がトランプ氏に巨額の献金をし、そしてトランプ政権が成立したことによって、条件は劇的に変化したのではないだろうか? テスラが規制上の問題を突破できれば、世界中のあらゆる自動車メーカーが、ガソリン車メーカーも、EVメーカーも、ハイブリッド車メーカーも、中国企業を除けば、テスラにかなわない。 そして、中国からの輸入車に対しては、高率の関税をかければ、シャットアウトできる。そうすれば、中国以外の国のすべての自動車生産を、テスラが独占してしまう事態も考えられなくはない。 これこそが、イーロン・マスク氏の世界制覇計画だったのではあるまいか? これは、決して誇張ではない。事実、テスラの株価は、2024年10月から急騰している。その結果、時価総額の世界ランキングで、現在第8位だ。時価総額は1.422兆ドル。日本のトップで世界第47位のトヨタ自動車の時価総額2306億ドルに比べると、61.8倍にもなる。
移動可能性は飛躍的に高まる
私はかつて、自動運転車が実現した場合に起きる大変化は、都心部の駐車場が不要になってしまうことだと考えていた。 確かにそういうことも起きるだろう。しかし、もっと大きな変化は、運転免許証を持っていない人でも、持っているのと同じように自動車を利用できることだ。 これは、私が運転免許証を返納してから、実感するようになったことだ。 運転免許証を返納したのは、事故を起こす危険を恐れたからだ。返納したことで、自分が交通事故の加害者になる可能性はなくなった。しかし、そのかわりに、いつでも好きなところに行ける自由はなくなった。流しのタクシーを簡単には捕まえられなくなったいま、移動の自由度はかなり低下したと感じる。 しかし、自動運転車であれば、いつでもどこにでも、自由に行ける。 問題はコストだが、サイバーキャブなら、自分が使わない時はタクシーにして運賃を稼げばよい。だから、いまよりも利用効率はずっと上がるわけで、マスク氏が言うような価格であれば、十分採算が取れるだろう。 自分が買わなくてもよい。他の人が無人タクシーを提供してくれるからだ。それによって、誰もが簡単にタクシーを利用できるようになり、人々の移動可能性は飛躍的に高まるだろう。
日本の自動車産業はどうなる?
もしこのような事態が現実化すれば、日本の自動車産業が甚大な影響を被ることは避けられない。 もちろん、既存メーカーからの反対で、規制が加わるということは十分に考えられる。実際、ライドシェアリングが、現在そのような状態だ。 しかし、利用できる技術を規制によって排除するという状態を、いつまでも続けることはできないだろう。 そして、テスラ車と、中国の安い価格の完全自動運転車が、日本に輸入される。日本のメーカーは技術面でも価格面でも立ち打ちできない。 電器産業が衰退したあと、自動車産業は、日本の唯一の基幹産業だ。それがこのような事態に陥った時、日本経済はどうなるのだろうか?
野口 悠紀雄(一橋大学名誉教授)