福島入団3年目、岩村明憲に突如降りかかった「総額1億円」の負債。「自分まで逃げることは絶対したくなかった」
【連載・元NPB戦士の独立リーグ奮闘記】第3章 福島レッドホープス監督・岩村明憲編 【写真】MLBレイズでリーグ優勝し歓喜する岩村明憲 かつては華やかなNPBの舞台で活躍し、今は独立リーグで奮闘する男たちの野球人生に迫るノンフィクション連載。第3章はNPB、MLBで活躍し、WBC日本代表としても活躍した現・福島レッドホープス監督、岩村明憲。輝かしい実績を持つスター選手だった岩村は、なぜ今福島で独立リーグ球団の監督をしているのか。その知られざる奮闘ぶりに迫った。(全4回の第2回/前回はコチラ) ■「こんなふざけた話があるか」 「選手兼任監督」として福島ホープスに入団した1年目の2015年シーズン、岩村は若手選手にチャンスを与えるため、自身の出場機会は最低限に抑えた。それでも10試合で打率.556という圧倒的な成績を残した。 監督としても、前期は最下位に沈んだものの、後期は新規参入ながら地区優勝を果たした。監督として初めて経験した胴上げに、NPB時代ともMLB時代とも違う、野球人として格別の喜びを噛み締めた。 「震災から立ち上がり、懸命に生きる福島県民の希望の光に」という球団運営会社の言葉に共鳴した岩村の挑戦は、順調に始まったように思えた。しかし3年目の2017年シーズン、同年限りで選手として現役引退を決めた岩村には次々と災難が降りかかった。 「最初に副社長が逃げて、次に社長が逃げて、最後に自分を呼んだゼネラルマネージャーまで逃げました。ゼネラルマネージャーは、お金の問題は関係なかったのかもしれません。でも自分に声をかけたにもかかわらず、なんの責任もとらないままいなくなりました。『こんなふざけた話があるか、いったい誰に呼ばれて福島で頑張っていると思っているのか』と憤りました」 2017年9月10日、岩村は自身の引退試合として福島ホープスの地元、郡山市で行なわれた後期最終戦に1番指名打者で先発出場した。観客は球団発足以来最多となる3607人。4打数2安打で21年間の現役生活を締め括り、チームも同試合でプレーオフ進出を決めて花を添えた。 ヤクルト時代に打撃を学んだ恩師で、「何事も苦しいときが自分の礎をつくる」という「何苦楚(なにくそ)魂」を授けてくれた中西太氏や、岩村のプロ入りと同時に二軍監督兼バッテリーコーチに就任し、当初から才能を高く評価し育ててくれた八重樫幸雄氏も引退試合に駆けつけてくれた。 本来は21年間の現役生活を振り返り、多少はゆっくりしたい気持ちもあったかもしれない。そんな最中、球団経営に窮した球団社長が突如雲隠れし、莫大な負債を残したまま、経営陣が次々と逃げ出すという事態が起きたのだ。