東京ディズニー「夢の国」に暗雲…入園者30万人減の「意外な原因」とは?
● 巨額投資の代償? コストが大幅に増加! テーマパーク事業の発展には設備投資が欠かせません。顧客に新しい体験を提供し続けなければ飽きられてしまうからです。しかし、巨額の投資には当然代償があります。それが「減価償却費」という形で発生するコストです。 減価償却費とは、例えば100億円の設備を10年間使用する場合に、毎年10億円ずつ費用として計上していく会計上の費用処理です。 今回の新エリア開業に伴う投資額は約3200億円と非常に大きく、毎年発生する減価償却費も大きな負担となります。実際、前年同期と比較すると、主に新エリア開業の影響で減価償却費は73億円、増減率にして31.9%も増加しました。 加えて、新エリア開業に伴うスタッフの労働時間増加や賃金改定により、人件費も84億円の増加(前年同期比15.15%増)。また、老朽化した設備のメンテナンス費用がかさみ、諸経費は109億円(同8.5%増)増加しました。 このように、大型投資の代償としてコストは大幅に増加し、その増加分をも上回る収益向上を見込んでいたものの、猛暑の影響で入園者が減少したことで、予想通りには伸びませんでした。 夢の国として新しい体験を顧客に提供し続けながら、いかにコスト効率を高めるかが、オリエンタルランドの成長を左右する大きな課題となっています。
● 価格戦略の影 チケット値上げがもたらした懸念 入園者減少にも関わらず売上高が微増した背景には、入園チケットの値上げがあります。客単価は前年に比べて737円(同4.4%増)増え、来園者1人当たりの支出は1万7303円に達しています。 しかし、懸念すべきは「国内」入園者数の減少です。円安によりインバウンドが増えているものの、日本人の顧客離れが問題視されています。日本の消費者にとって、夢の国で得られる体験価値が、チケット料金に見合わないと感じるようになっているのかもしれません。 物価高や家計負担が増す中で、日本の消費者はコストパフォーマンスを重視する傾向にあり、たとえディズニーのブランド力があってもチケット値上げには敏感です。リピーターであっても、パークから足が遠のく可能性は否めません。 こうした状況はビジネス全般に当てはまり、商品やサービスの価格設定がいかにブランドの持続可能性を左右するか、改めて認識させられます。ディズニーリゾートのブランド力に頼った値上げであったとしても、顧客離れの兆候が見られる以上、今後の価格戦略には慎重な見直しが必要とされるでしょう。 東京ディズニーリゾートの存在価値は「唯一無二の体験」にあります。しかし、消費者の嗜好や価値観は常に変化しており、ブランドの維持には不断の努力が求められます。今回の決算は、猛暑、コスト増加、価格戦略やブランド維持の難しさが今後の課題であることを浮き彫りにしました。 これらが、夢の国でさえ避けられない現実の壁です。リスク管理や価格戦略、ブランド価値の維持は、ビジネス全般においても学ぶべき示唆を多く含んでいます。オリエンタルランドが未来に向けてこの壁をどう乗り越えるのか。その挑戦は、決して他人事ではなく、全てのビジネスパーソンにとって教訓になるでしょう。 >>さらに詳しく『東京ディズニー運営オリエンタルランド「6500億円投資で1.1兆円利益を出す」皮算用とは?』も読む ※なお、筆者も年に数回は東京ディズニーリゾートに訪れるディズニーファンの一人です。表現を一般化するため、文中に「客・顧客(ゲスト)」や「スタッフ(キャストさん)」といった呼称を使用していますが、ご了承ください。
白井敬祐