なぜリモートワークで結果が出ない?「できない人」より「普通の人」がハマる落とし穴
リモートワークで「健康を害して退職した」Kさんの話
例として、こんな話があります。これは、「いつの間にか、どうにもならなくなったんだ…」と言ってリモートワークの後に退職した、出版社勤務、入社10年目のKさんの話です。 Kさんは穏やかで人当たりも良く、中堅で上からも下からも信頼が厚い方でした。リモートワークにも順応でき、順調に勤務していましたが、最終的に健康を害し、退職しました。Kさんと面談をし、業務スケジュールやメールのやり取りを見ると、出社している社員とは明らかに異質の状況が浮かび上がってきたのです。 納品の予定日やクライアント先とのミーティングなど、決定事項に関する履歴はびっしりあったのですが、そこに至るまでの社内での議論やタスク配分、期間調整、相談といったプロセスの履歴が圧倒的に少なかったのです。 「同じ環境なのに昇格した同期がいる。『これくらいやらないと評価されない』と自分を追い込んでしまった」と言っていました。つまりは成果を追求しすぎて、不安定な状況に自分を追い込んでしまったのです。
「成果を出せる人」になるために…
リモートワーカーで成果を出せる人に共通しているのは、リモートワーカーとしての環境を俯瞰して理解できていることです。そもそもICT環境などは整っているので、見えないのであれば、見せに行くしかないのです。 今の進ちょくはどの段階で、どれくらいの件数があって、そこに至るまでにこんな成果が上がって…といった小さなステップを数値化し、報告して、自身の成果を積極的に説明することが必要です。 ただ、いちいち疑問点をメモしておいて相談したり、現段階の成果を説明するのはとても面倒です。チャットツールもWEB会議もありますが、今までの「これどう思う?」と隣に声をかけられる環境や、「いまアイツ詰まってるな」と察してもらえる環境を身体が覚えているので、心理的にも作業的にも工数がかかります。筆者自身がリモートワーカーなので、よくわかります。 しかし、この相談を面倒だと放置した結果、成果物が要望とまったく違うものになり、やり直した失敗が私には多々あります。 加えて、状況や努力を察してくれる人もいません。過剰なアピールになりそうと一歩引いてしまいがちですが、行動やプロセスを自分で説明しないと、誰も察してはくれないのです。ミーティング中に折り返しの電話が30件になった日も、業務改善につながると思って1人で作業した時間も、対応件数や前後での削減時間を説明しないと評価の土台にも上がれないのです。 これができている人とできていない人では、同じパフォーマンスであっても成果に大きな差が付いていきます。そしてこの差は、性質が違うものなので、多数の案件を持つことでも、分単位でスケジュールを詰め込むことでも埋まることはありません。 そこに至るまでのプロセス、熟した議論が見えている結果や、密な連携により、多角的に見て取りこぼしの少ない仕様こそ、結果として評価できる成果に結びつくのです。 満員電車も堅苦しいスーツもない環境を享受できているからこそ、「見てくれない」と愚痴るのではなく自身の説明責任を果たすことが必要なのです。
執筆:特定社会保険労務士/採用定着士 鈴木麻耶