『バティモン5 望まれざる者』ラジ・リ監督にインタビュー
──監督、それとアレクシスさんもですが、Kourtrajmé(クルトラジメ)というアーティスト集団に所属しています。フランス映画界で活躍するクルー揃いですが、これまでどんな影響を受けてきましたか? 自分にとっては始まりの場所です。たとえば集団の創設者である監督のキム・シャピロン、ロマン・ガヴラス、トゥマニ・サンガレは、私が30年近くつるんできた友だちであり、仕事仲間でもあります。いわゆる映画学校には行っていませんから、この集団が最良の学校でした。すべてを学んだと言っても過言ではありません。 ──仲間内はどういう雰囲気なんでしょう。政治スタンスなど共通項も多いと思うんですが、時には意見を戦わせたりも? もちろん! 政治的には似た立場だけど、個々の課題について考えがぶつかることはありますし、クリエイションにおいても当然そうです。というか、そんなのいつもですよ。脚本一つとっても、どこかおかしいと思えば遠慮せずはっきり言い合います。私自身、コテンパンにされたことも(笑)。でも、そうやって意見をぶつけ合う方がむしろ面白いと思います。 ──クルトラジメのことも支援してきたマチュー・カソヴィッツ監督の『憎しみ』(95)は、パリ郊外の人々が抱える問題を描いた映画において、記念碑的存在です。以降、郊外についての映画というのは、ラジ・リ監督からするとどんな変遷を辿り、今どんな位置にあると思いますか? 『レ・ミゼラブル』はよく『憎しみ』と比較されます。両者の間には20年弱のスパンがありましたが、社会はほぼ変わっていません。『憎しみ』が訴えた警察の暴力も相変わらずだし、なんなら悪化している感じさえあります。それが悲しいやら、情けないやら。またその間も、郊外を舞台にした映画自体は生まれていますが、外部の人がよく事情を知りもせず撮ったものばかりで、注目に値する作品は少ないです。 ──エコール・クルトラジュメ(ラジ・リ監督がボスケ団地で立ち上げた、映画制作の入門授業を無料で提供するスクールプロジェクト。学歴不問で、18歳以上であれば誰でも出願できる)から、ラジ・リ監督の思いを継ぐ次世代の才能が誕生するといいですね。 うん、そういうことです。私もそう願います。 ──監督、それとアレクシスさんもですが、Kourtrajmé(クルトラジメ)というアーティスト集団に所属しています。フランス映画界で活躍するクルー揃いですが、これまでどんな影響を受けてきましたか? 自分にとっては始まりの場所です。たとえば集団の創設者である監督のキム・シャピロン、ロマン・ガヴラス、トゥマニ・サンガレは、私が30年近くつるんできた友だちであり、仕事仲間でもあります。いわゆる映画学校には行っていませんから、この集団が最良の学校でした。すべてを学んだと言っても過言ではありません。 ──仲間内はどういう雰囲気なんでしょう。政治スタンスなど共通項も多いと思うんですが、時には意見を戦わせたりも? もちろん! 政治的には似た立場だけど、個々の課題について考えがぶつかることはありますし、クリエイションにおいても当然そうです。というか、そんなのいつもですよ。脚本一つとっても、どこかおかしいと思えば遠慮せずはっきり言い合います。私自身、コテンパンにされたことも(笑)。でも、そうやって意見をぶつけ合う方がむしろ面白いと思います。 ──クルトラジメのことも支援してきたマチュー・カソヴィッツ監督の『憎しみ』(95)は、パリ郊外の人々が抱える問題を描いた映画において、記念碑的存在です。以降、郊外についての映画というのは、ラジ・リ監督からするとどんな変遷を辿り、今どんな位置にあると思いますか? 『レ・ミゼラブル』はよく『憎しみ』と比較されます。両者の間には20年弱のスパンがありましたが、社会はほぼ変わっていません。『憎しみ』が訴えた警察の暴力も相変わらずだし、なんなら悪化している感じさえあります。それが悲しいやら、情けないやら。またその間も、郊外を舞台にした映画自体は生まれていますが、外部の人がよく事情を知りもせず撮ったものばかりで、注目に値する作品は少ないです。 ──エコール・クルトラジュメ(ラジ・リ監督がボスケ団地で立ち上げた、映画制作の入門授業を無料で提供するスクールプロジェクト。学歴不問で、18歳以上であれば誰でも出願できる)から、ラジ・リ監督の思いを継ぐ次世代の才能が誕生するといいですね。 うん、そういうことです。私もそう願います。 ●『バティモン5 望まれざる者』 パリ郊外に立ち並ぶ団地には、労働者階級の移民家族たちが多く暮らしている。だが再開発計画によって、老朽化した団地の取り壊し計画が進み、バティモン5(5号棟)の住民たちも戦々恐々としていた。市長の急逝で臨時市長となった小児科医のピエールは、地域の復興と治安改善を政策にかかげ、理想に燃えている。一方、バティモン5の住民でマリにルーツを持ち、フランス語を話さない移民たちのケアスタッフとして働いているアビーは、友人ブラズの手を借りながら、行政の怠慢に苦しむ人々の助けになろうと日々奮闘。行政と住民との間にはもともと深い溝があったが、ある事件をきっかけに衝突は激化。均衡が崩れ去り、激しい抗争へと発展していく。 監督・脚本_ラジ・リ 脚本_ラジ・リ、ジョルダーノ・ゲデルリーニ 出演_アンタ・ディアウ、アレクシス・マネンティ、アリストート・ルインドゥラ、スティーヴ・ティアンチュー、オレリア・プティ、ジャンヌ・バリバール 配給_STAR CHANNEL MOVIES 2023年/フランス・ベルギー/シネマスコープ/105分/カラー/仏語・英語・亜語/5.1ch 新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開中 © SRAB FILMS - LYLY FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - PANACHE PRODUCTIONS - LA COMPAGNIE CINÉMATOGRAPHIQUE – 2023 ●ラジ・リ フランス・モンフェルメイユ(セーヌ=サン=ドニ県)出身。長編デビュー作『レ・ミゼラブル』(19)は、第72回カンヌ国際映画祭審査員賞受賞を皮切りに、第92回アカデミー賞国際長編映画賞フランス代表に選出され、第77回ゴールデングローブ賞外国語映画賞にもノミネートされた。その後もロマン・ガヴラス監督のNetflix映画『アテナ』で製作・脚本を手がけるなど、精力的に活動中。 Photo_Yuka Uesawa Text& Edit_Milli Kawaguchi