非人道的な拷問によって「壊された」女性…「数か月ぶり」に見る自分の姿に思わず嘔吐
どうしてこんな状態に
背の高い木と、緑の草、こちらに延びている細い小径を見ていました。すると、数人の男女がその小径を歩いて来ました。私は彼らを見つめました。尋問官が私の反応を観察しています。彼らが近づいてくると、まず可愛い娘、ネガールに気づきました。娘はみんなの前を走るようにして、建物に近づいてきます。それから愛しい息子、フォルードがいました。あの子は3ヵ月の間、マシュハドまで12回も来てくれたのです。そして夫もいました。 自分のなかに、感情や考えをせき止めようとするバリアのようなものがありました。どんな感情も湧き上がっては抑えつけられます。心も頭も反応しませんでした。ついに彼らがやって来ました。私は息子を抱きしめ、耳元に口を寄せてささやきました。 「お前、マシュハドの裁判官を信じてはダメ。ここに来るまでの間に、お前が“事故”に遭うかもしれないなんて言ったのよ」 「ママ、マシュハドはもう終わったよ」と息子は言います。 「マシュハドとはもう何も関係ないんだ、僕もマシュハドには行かないよ」 時間制限があるとは知りませんでした。夫と娘が待っていることも。思い出せる限り、私は何も話しませんでした。ただ家族に触れたかった、触れられたかった、そして彼らの匂いを、私の魂の奥深くまで、残りの人生ずっと吸い込んでいたかったのです。あとで自問しました。自分は一体どうしてしまったのか、どうしてこんな状態になってしまったのかと。
鏡に映る知らない人物
それからもうひとつ、悲しい体験をしました。何ヵ月かのち、具合が悪くなって209棟の外にあるエヴィーン刑務所の中央医務室に連れて行かれることになりました。別の棟に行くには、エレベーターを使わなければなりません。私と女性房の責任者の女性がエレベーターに乗りました。唐突に、エレベーターの鏡に映っている知らない人物に目が留まりました。 私はその人を見つめ、誰なんだろうと思いました。このエレベーターに看守と自分以外の人間がいるのだろうかと首をかしげました。そして見回すと、やっぱり中には私たちしかいません。ということは、あの、黄色い、痩せ細った、貧相な、白髪の、眉毛がぼうぼうの人物は、私なの? その場で吐き気がしました。あれが自分の姿だなんて。 翻訳:星薫子 『女性囚人を殴りいたぶった末に医務室で「5時間放置」…「手あたり次第の逮捕」で刑務所は「無法地帯」へ』へ続く
ナルゲス・モハンマディ(イラン・イスラム共和国の人権活動家・ノーベル平和賞受賞者)