「山谷を日本のガンジス河に」 “逆縁”の世界を見て絶望した男が「きぼうのいえ」を作った理由
苦難の意味が分かった
東京・吉原のど真ん中で独居生活を送る山本雅基氏(61)。最近、旧約聖書の「ヨブ記」に出てくる苦難の意味が分かった気がするという。大学の卒論でも取り上げたテーマだったが、自ら創設したホスピス「きぼうのいえ」を追放され、身寄りのない生活を送るようになった体験は得るところもあったようだ。(全4回の第4回) 【写真】家賃5万3700円…吉原のど真ん中にある1Kマンション。山本氏の家の中、実際の様子。愛猫の姿も ***
21歳の時に洗礼を受けたという山本氏。神父になろうとしたが、途中で断念した。その後は小児科などでのボランティアを経て、「きぼうのいえ」を設立する。 「福祉や医療を従事する人にもいろいろいてね。『白い巨塔』の 財前五郎のような権威主義、権力志向の塊のようなドクターが上司になってしまったこともあった。聖書を読んでいると、そんなもんを信じているからろくな人間になれねえんだって顔をされ、そうした圧力で鬱病になって、1年間布団にくるまり、耳を塞いで眠り続けたよ」 白血病や小児がんの子どもたちの面倒を見るボランティアでは、乳幼児の葬式の、どこにも救いを見出せないような場面に何度も立ち会い、絶望感に打ちひしがれた。 「子どもの棺桶というのは本当に小さくて、そこに遺体を納めて『お別れでございます』となって、ガラガラって火葬炉が音を立てて開くと、お母さんが我が子と別れるのが嫌で、叫んで暴れて一緒に炉に入ろうとする。ご親戚が止めても、制止を振り払おうとして泣きわめく。そんな逆縁のような世界を見て、こんな悲惨な世界に足を踏み入れるのは嫌だって、絶望を感じました」 そうした経験が、「きぼうのいえ」へと結実していった。 「小児がんや白血病の子どもにはお父さんやお母さんがいて、泣いてくれる人がいる。逆縁だからとても悲しいことだけれども、この社会には誰からも顧みられることなく、ひとりぼっちで死んでいかなければならない人もいる。路上で餓死したり凍死や病死していく人たちがいる。マザー・テレサさんの『死を待つ人の家』というのがあるけど、どうして日本にはそういうところがないのか。修道会に行って、ホスピスはやらないんですかって聞いても皆さん首を振るばかりで『やりませーん』の一点張りだったから、そんじゃ俺がやるわいってことになったの。懐かしいね。マザー・テレサが全ての命をのみ込んでいく事業をやったように、僕も山谷を日本のガンジス河にするんだって思った」