率直に問う 「フェリー業界」に未来はあるのか? 観光客6000万人時代に考える、「島国日本」の永続的フェリー戦略とは
国内フェリーの技術革新とデジタル化
国内フェリーの技術革新は、 ・環境対策 ・省人化 ・サービス向上 の分野で求められている。当然フェリーにもCO2削減など環境対策が求められており、ディーゼルエンジンで発電してモーターで航行するスーパーエコシップや液化天然ガス(LNG)を燃料とするさんふらわ くれないなど、技術開発が着々と進んでいる。 フェリーの電動化は、環境対策に恩恵をもたらすだけでなく、機関部の要員が省略できるなど省人化が図れるメリットがある。究極的には無人航行だろうが、そこまでたどり着かないまでも、ブリッジの改善や安全設備を充実させることで、必要な乗組員の体制を見直せる余地は残されている。もちろん、離着岸の自動化など地上側の省人化も着々と技術開発が進んでいる。 サービス向上では、インバウンドを考えるなら ・他言語対応 ・MaaS(次世代移動サービス)による他の交通手段との連携 が欠かせない。これは筆者(山本哲也、交通ライター)の経験であるが、広島の尾道を訪れて対岸に渡るフェリーに乗ってみたいと思っても、正直にいうと 「乗船券の買い方」 がわからなかった。正解は、対岸あるいはフェリー内で現金を支払うのであるが、外国人であればもっとわからないだろう。せっかくインフラとして、あるいはちょっとした船旅を味わう手段としてフェリーがあるのに、生かしきれていないもったいなさを感じた。 ただ、中小の運航会社に単独でキャッシュレス決済などへの投資を迫るのは“無理筋”とも思えなくもない。観光振興関連の補助金だけでなく、MaaSを活用して移動手段あるいは観光資源としてシームレスに利用できるような方策が求められる。
国内フェリーの将来展望と成長戦略について
中長距離フェリー、近距離フェリーいずれも、解決すべき課題が残されている。その一方で、 ・内航(フェリー/RORO船等)の輸送量および輸送分担率を今後10年程度で倍増させる ・2030年で訪日外国人旅行者数6000万人、訪日外国人旅行消費額15兆円 という、物流面、観光面での目標が政府により掲げられており、今後はフェリーがこれらの需要をいかに取り込めるかにかかっている。 もちろん、現状の航路を活用するだけでなく、インフラとしてあるいは観光航路としてウオーターフロントにフェリーを投入して新規開拓する方法もある。バンクーバー、ニューヨークなどが参考となる。 ・フェリーに関する技術開発 ・新型フェリーの投入 ・フェリーターミナルの整備 ・省人化に向けた地上設備の改修 ・MaaSの導入 に向けて、国や自治体による補助は欠かせない。しかしそれ以上に、海外からの観光客を含めてもっとたくさんの人にフェリーに興味を持ってもらい、ファンを増やす地道な活動が重要になってくる。 潮風を感じながら、あるいは水平線に思いをはせながら、ゆったりとしたぜいたくな時間を過ごせるフェリーが、これからも元気に航行し続ける世界線を夢見てやまない。
山本哲也(交通ライター)