日本の政局混迷で植田日銀の政策舵取りはますます難しくなる
今週、東京を襲った政治的激変の影響をとくにひしひしと感じているのは日本銀行の本店だろう。植田和男総裁は30日から2日間の日程で金融政策の決定会合に臨んでいるが、会合を取り巻く状況はこの数日でがらりと変わった。 1週間前、つまり与党の自由民主党と公明党が27日の衆議院選挙で過半数の議席確保に失敗する前は、植田のチームがこの会合でどのような決定をしたり見通しを示したりするのか、あるいは会合後に植田がどんな発言をするかについて、多少なりとも緊張感が漂っていた。しかし、いまはそういう感じではない。日銀の政策運営に政治的な要因が絡んでくるようになってきたためだ。 それはひとつには、自民党の大敗を通じて、人口およそ1億2500万人の日本の相当数が経済の状態に不安を感じていることが示されたからだ。もうひとつは、石破茂首相がダメージを負ったことで、植田は利上げと円高の最大の擁護者を近く失うおそれが出てきたためだ。 10月1日に首相の座に就く前、石破は日銀による金利正常化に賛成していた。また、輸入インフレにあえぐ日本で、安すぎる円は弊害が大きいとの見方も示していた。 現在、石破は自らの政治生命を賭けて戦っており、日銀の政策に関する立場も必要に応じて変えそうだ(編集注:石破首相はすでに2日、植田総裁と会談したあと、記者団に「日銀の政策に指図する立場にない」としつつ「個人的には現在、追加の利上げをするような環境にあるとは考えていない」と述べている)。自公政権が延命するためには第3党の協力を得るしかない。 つまり、石破もまた、日銀に対して利上げに慎重になるよう働きかけ出すかもしれない。もっとも、石破が首相を続投できればの話だが。 いずれにせよ、植田日銀は、岸田文雄前首相が退陣しようとしていた9月末時点よりも難しいシナリオに直面している。 岸田はその前月に自民党総裁選への不出馬を決めたとき、日本経済は堅調な軌道にあると判断していたのだろう。日銀は7月末、政策金利を2008年以来の高水準に引き上げた。この措置は、自民党政権が10年以上にわたって生み出そうとしてきた「好循環」が始まったという印象を日本のエスタブリッシュメントに与えた。 だが実際のところ、それ以降の小売売上高や輸出、鉱工業生産、工作機械受注などのデータは、日本の景気が勢いを失っていることを示している。中国も不動産危機が深刻化し、苦境が続いている。