アストンマーティンが「今あえてV型12気筒」を新開発した狙いは何か?
【写真】新型V12ツインターボを搭載するヴァンキッシュ(40枚以上) さらに「今回、新たに12気筒を開発しようと思ったのは、顧客の声を聞いたからです」と、オウェン氏の発言に言葉を添えるのは、ディレクター・オブ・ストラテジー&プロダクトのアレックス・ロング氏だ。 「アストンマーティンではハイパースポーツカーも開発していますが、方針はあくまでも今回のヴァンキッシュのような“エンジンを搭載するGT(グランツーリスモ)”を、可能なかぎり作り続けることです」
この先「パワートレインが電動化に向かうのは避けられない」とロング氏も認める。しかし、アストンマーティンの顧客は、やはりエンジンを求める。 「これからの市場のトレンドは、電動化になるでしょう。しかし、ウルトラ・ラグジュアリーやウルトラ・ハイパフォーマンスといったカテゴリーでは、顧客のニーズは反対方向に動いています。COVID19がひとまずの落ち着きを見せ、かつての世界が戻ってきたのです。V8のクルマに乗りたい、V12エンジンを堪能したいという顧客の声が、数多く寄せられるようになったのです」
■12気筒の良さはどこにあるのか? パワーの点でいえば、SUVの「DBX 707」に搭載されているV6のプラグインハイブリッド(PHEV)でも、十分なものが手に入る。でも、趣味のクルマの世界では、実用性は常に先にはこないものだ。 「アストンマーティンといえば12気筒だと、捉えている顧客も少なくありません。私たちに、“さらなる12気筒搭載モデルを開発してほしい”という要望も多くありました。もちろん、イメージだけで言われているのではありません。12気筒には、ぶ厚いトルクとともに、各気筒の点火時期に起因する、魅力的な音とバイブレーションがあって、“これがなくては!”という方も大勢います」
新たな12気筒エンジンの開発にあたりオウェン氏は、「アタマを使って設計したのは間違いありませんが、何よりも必要だったのは“熱い心”でした」と言う。 アストンマーティンで直近の12気筒エンジンは、2024年に生産終了した「DBS」の5.2リッターだ。 ヴァンキッシュの新しい12気筒エンジンも排気量は同じだが、部品を可能なかぎり適正化し、ターボチャージャーも刷新。パワーと燃費をともに追求した「まったくの別もの」(オウェン氏)だという。