日銀・黒田総裁会見12月21日(全文1)雇用所得環境が確実に改善
「リバーサルレート」という新しい言葉を出してきた意図とは?
共同通信:共同通信【ツジムラ 00:09:04】と申します。ありがとうございます。2点、お願いします。1点は先日、スイスのチューリッヒでリバーサルレートという言葉を使われて、最近になって、総裁、副総裁ともに地域金融機関等との金融仲介機能についての言及が増えていると思います。そこで、今になってそういう新しい言葉を使って言及をされた意図、背景をお教えいただきたいと。以前、金融機関のために金融政策をしているわけではないという趣旨の発言もあったかと思いますけれども、何がどう変わって、今、どういう環境だからこういうお言葉を出されたのかと、この辺の背景をもう一度説明していただければと思います。 もう1点、それに付随して地域金融機関の今、かなり収益は悪くなっているんですけれども、そこについてのコメントもいただければと思います。よろしくお願いします。 黒田:ご指摘のこのリバーサルレートという考え方は、利子が、金利が下がりすぎると金融仲介機能が阻害されて、かえって金融緩和の効果が反転してしまう可能性があるという学術的な分析の1つであります。これ自体は興味深い分析ではあるんですけれども、現在、わが国の場合は金融機関が充実した資本基盤を備えておりますし、信用コストも大幅に低下しているという状況でありまして、実際のところ、金融仲介機能に現段階で何か問題が生じているということはないというふうに思います。 短観など各種の調査を見ましても、低金利環境が続く中で金融機関の貸し出し態度は引き続き積極的でありまして、貸出残高も順調に増加しております。もともとこの長短金利操作付き量的・質的金融緩和の下で、イールドカーブの形成に関する考え方として、昨年の9月の総括的な検証ですでに明確に示しておりますけれども、貸し出しや社債金利への波及、あるいは経済への影響、金融機能への影響など、経済・物価・金融情勢を踏まえて総合的に、適切なイールドカーブの形成を促すということを判断していくということになっておりまして、こうした考え方は昨年の9月の、長短金利操作付き量的・質的金融緩和を導入したこととまったくその後、変わっておりませんで、特にリバーサルレートということ、学術的な分析を取り上げたからといって、昨年9月以来の長短金利操作付き量的・質的金融緩和について、何か見直しが必要だとか、変更が必要だということはまったく意味しておりません。 チューリッヒ大学で講演したこともありまして、長短金利操作付き量的・質的金融緩和、昨年の9月の総括的検証を踏まえて行った金融政策の新しいフレームワークについて、外国の人に今、分かりやすく説明する上でいろいろな学者の方の、このリバーサルレートだけでも、その他いろいろな学者の方の理論を引用しながらご説明をしたということでありまして、何か変化があったということではありません。 2番目の地域金融機関の問題につきましては、先ごろ日本銀行が公表しました金融システムレポートでもかなり詳しく示してありますとおり、地域金融機関の収益力について、これは最近の低金利環境ということもあると思いますが、それよりも実はこの金融システムレポートでも詳しく分析しておりますように、かなり長い期間にわたって構造的に地域の人口や企業数が減少しているという中で、ややその従業員数とか店舗数に過剰感が生じている可能性が高くて、そうした中で地域金融機関では貸し出し取引に付随する、いわゆる非金利サービスの提供が限定的であるということで、どうしても貸し出し取引の差別化の度合いが低くて、金利面での競争が激化しやすいという面があるということで、いわば日本の構造的な変化を反映した面も指摘されているわけでありまして、そうしたものに対応して、どのように地域金融機関が、引き続き適切な金融仲介機能を果たしていったらいいのかということについては、金融システムレポートの中でも触れておりますとおり、やはりそれぞれの金融機関がその地域で持っている強みというか、そういうものをさらに生かしていって、金融サービスについて差別化を進めていくっていうことが一方で必要だと思いますし、他方で効率性というか、効率をさまざまな形で引き上げていくということも重要だと思いますが、いずれにいたしましても、日本銀行としても引き続き金融機関の収益力強化、あるいは業務改革などの取り組みについては考査、モニタリングなどを通じて、そういった取り組みを促し、あるいはサポートしていきたいというふうに考えております。 【連載】日銀・黒田総裁会見(2017年12月21日) 全文2へ続く