日銀・黒田総裁会見12月21日(全文1)雇用所得環境が確実に改善
人手不足の日本経済に与える影響について
幹事社:ありがとうございます。2問目お願いします。先日の短観等でも示されましたように日本経済、このところ人手不足がより一段と深刻になっているように思います。人手不足、いい面、悪い面、両面あるかと思いますが、日本経済に与える影響について総裁のお考えをお聞かせください。 黒田:はい。ご指摘のように先日の日銀の短観でも示したように、わが国では景気の拡大とともに労働需給が一段と引き締まっているということは事実でありまして、こうした中で人手不足の深刻化が労働集約的な業種を中心に、事業展開の制約となりうるとの声があることは承知をしております。もっとも多くの企業では人手不足に対応して女性や高齢者など、多様な労働力の活用や勤務形態の見直しのほか、省力化投資などさまざまな工夫を積極的に行っております。このため経済全体として見れば、人手不足が景気拡大の制約になるとは考えておりません。 もとよりやや長い目で見ますと、確かに生産年齢人口の急速な減少が続く中、より高い成長を持続的に実現していくためには、やはり生産性の向上に向けた企業の継続的な取り組みが不可欠であるというふうに考えております。最近の人手不足はこうした取り組みを、一段と後押しすることにもなると思われます。この点に関しては政府も、労働生産性の向上を意図した働き方改革などのさまざまな構造改革に取り組んでおられます。こうした下で企業の前向きな努力が、日本経済全体の供給力強化につながっていくということを期待しております。
今年一年を振り返って、どういう年だったと思うか
幹事社:ありがとうございます。3問目お願いします。本日の定例会合、今年最後の金融政策決定会合ということになりました。金融政策という面では今年は現状維持が続いたかと思いますが、この1年、振り返りますとどういう年だったとお考えでしょうか。それと来年の日本経済および世界経済、どのような年になると今、現時点でお考えをお持ちでしょうか。お聞かせいただければ幸いです。 黒田:確かにこの2017年、全体を振り返ってみますと、海外経済については世界全体の貿易量がはっきり増加して、グローバルに製造業の景況感も改善するということであって、地域間のバランスの取れた成長が見られたというふうに思います。こうした海外経済の成長にも後押しされて、この1年、わが国の経済は着実に改善したというふうに思います。景気拡大の裾野も特定の業種とか特定の地域に限られず、幅広い経済主体に広がっているというふうに思います。 先行きにつきましては、海外経済は緩やかな成長を続けるというふうにみております。先進国の着実な成長に加えまして、その好影響の波及、あるいはそれぞれの国の政策効果によって、新興国の経済の回復というのもしっかりとしたものになっていくというふうに考えられます。わが国経済もこうした海外経済の成長や極めて緩和的な金融環境などを背景にして、企業、家計の両部門において、所得から支出への前向きの循環メカニズムが継続、持続することから、緩やかな拡大を続けるというふうにみております。 一方、この物価面について見ますと、この1年、消費者物価の前年比は少しずつ上昇してきましたけれども、景気拡大や、あるいは労働需給の引き締まりに比べますと、弱めの動きが続いているということは確かであります。もっとも最近ではマクロ的な需給ギャップが着実に改善する中で、パート時給ははっきりとした上昇基調を続けておりますし、また既往の為替円安による仕入れ価格の上昇などもありまして、企業のコスト面から見た価格上昇圧力というものは着実に高まっているというふうにみられます。また雇用・所得環境の改善が続く中で、消費者の値上げに対する許容度も少しずつ増してきているようにうかがわれるわけであります。こうした状況の下で先行き、企業の賃金・価格設定スタンスは次第に積極化していくというふうにみられます。 また実際に価格引き上げの動きが広がるにつれて、中長期的な予想物価上昇率も着実に上昇するというふうに思われますので、消費者物価の前年比は来年以降もプラス幅の拡大基調を続けていくというふうに考えております。今、申し上げたのがいわばメインシナリオというか、一番可能な、ありそうな動向だと思いますけれども、公表文にも示しておりますように、海外経済を中心としたいくつかのリスク要因というのもありますので、そういったことはよく注視していく必要があるとは思いますけれども、基本的に2017年の着実な経済の回復というものが、2018年にも続いていくというふうにみております。 幹事社:ありがとうございました。幹事社からは以上です。各社、お願いいたします。