教育現場で広がる「ボードゲーム」の奥深い魅力 「熟練者のみでの勝利」より満たされるものは
目的を設定せずに「遊びが持つ本来の力」を生かそう
不登校の児童・生徒数が過去最高を更新し続ける今。現在は評論家として活動する與那覇潤氏は、過去の自分を「僕は不登校ではなく出社拒否でしたが」と振り返る。当時の職場だった大学をうつ状態になって休職。そのリハビリテーションのためにメンタルクリニックのリワークデイケアに通い始め、そこでボードゲームに出合った。近年は教育の場でも導入が進むボードゲームの魅力とは、遊びの中で得る気付きとは。自身の経験をもとに深く語る。 【写真】ボードゲームについて「僕がメンタルの回復に役立ったと感じるのは、『他者同士が自然と気遣い合うようになる』という点」と話す與那覇氏 「ボードゲームは純粋に楽しいものだし、あらゆるバリエーションがあるので飽きることもない。いいところはたくさんありますが、僕がメンタルの回復に役立ったと感じるのは、『他者同士が自然と気遣い合うようになる』という点です」 評論家の與那覇潤氏は、2015年から2017年までリワークデイケアに通った。そこにはさまざまな人が集まっており、ゲームのメンバーもそのときによって異なっていた。診察等のために途中で抜けたり交代したりする人もいて、ルールをよく知っている人とまったくわからない人が交ざってプレイしていた。初心者は放っておくと大敗するため、自ずと周囲がフォローすることになる。この積み重ねが、與那覇氏の心にじわじわと効いた。 「うつ状態の僕は、『ほとんどの人間は信用できない』という精神状態に陥っていました。でもゲームをしていると、たまたまそこで同席しただけの人がすごく優しくしてくれるわけです。ルールを教えてくれるのはもちろん、自分が不利になっても手助けしてくれることも珍しくない。『あれ、人間って意外に信用できるぜ』と思えたことが大きかったですね」 ここ数年、ボードゲームは教育の場でも急速に広まった。学校図書室に複数のゲームがあったり、子ども自身の持ち込みも許可されていたり。図書館やフリースクールでの導入事例も増えているし、與那覇氏も学校関係者からゲームについての助言を請われることもある。その流れ自体は歓迎しているが、一つ気になることがあると言う。 「『コミュニケーション能力を伸ばせるゲームは?』『協調性アップに効果的なゲームは?』といったピンポイントなリクエストが、近日は増えていると聞きました。教育現場に定着した分、かえってゲームが特定の力を伸ばすためのドリルのように扱われ始めている」 ボードゲームを「目的のための道具」にすると、遊びが持つ本来の力が失われるのではないかと與那覇氏は続ける。目的を持つことを一概に否定するわけではないが、同氏は「純粋な楽しさ」を伝えたいと考えている。 「能力を身に付けろとまでは言わなくても、『親睦のために』『互いに関心を深めよう』といった目的をつい設定しがちですよね。しかし目的ありきではなく、むしろ目的なしに遊び会話する中でこそ、ボードゲームの一番の長所は享受できるものだと思うのです」