絶滅危惧の「イワテヤマナシ」未来へ 神戸の研究者、盛岡の農園で保全目指す
北上山系を中心に自生し、絶滅が危惧される「イワテヤマナシ」の保全を目指す農園が今春、盛岡市にオープンした。長年、研究を続ける片山寛則さん(58)が神戸大大学院を早期退職し、兵庫県宝塚市から移住して経営。宮沢賢治の童話「やまなし」で知られる果実を未来に残す。(共同通信=日高将) イワテヤマナシは実が小さく酸味が強いが、香り豊かだ。童話のやまなしの中で「いい匂い」とされるものと同一だと言われている。和梨の品種改良に有用と考えて研究を始めた片山さんは、1998年から年に数回、岩手に通った。 北東北3県の分布調査を行い、さまざまな個体を収集し、神戸大の農園へ約500本の植樹を行った。東日本大震災の復興支援として同大から岩手県沿岸部に苗木を届けたこともある。 この間、伐採などにより、県内の個体数は半減したとみており「本気で保全するなら移住が一番だ」と考えた。リンゴ農園だった土地を手に入れ、リンゴ栽培をしながら、イワテヤマナシを育てることにした。准教授を務めた神戸大院を退職し、兵庫から約200本を帰郷させて「片山農園やまなし&アップルファーム」を設立した。2~3年で実をつけるという。
食用とするには加工が必要で、兵庫で育てた実などを使い、一緒に移住した妻と研究の日々。手探りで進めているが、地元加工業者は「賢治のやまなしならば」と乗り気になってくれた。 10月初旬、岩手県滝沢市で開かれた販売会にオリジナルのジャムとコンポートを初出品した。ジャムを試食した一戸町の会社役員高橋美奈子さん(56)は「町内の母の実家近くに実がなっていたと聞き、ずっと気になっていた。初めて食べたけれど、酸味が好みだ」と気に入った様子だ。 片山さんは、ゼリーやフレーバーコーヒーとしての商品化も視野に入れる。将来の夢は―。一つは、イワテヤマナシの栽培が軌道に乗り、生活の糧となって後継者が現れてくれること。もう一つは、既に自生地や栽培地からは消滅してしまった個体を、農園から元の地に帰していくことだ。