9日に開業した西鉄の新たなホテル「クルーム・バンコク・シーロム」（9日、タイ・バンコクで）＝橋本龍二撮影

　9日、タイの首都バンコク。近代的な高層ビルが立ち並び、多くの日系企業も事務所や店舗を構えるオフィス街の一角に西日本鉄道の新ホテル「クルーム・バンコク・シーロム」がオープンした。西鉄にとって23か所目、海外では5か所目となる直営ホテルだ。九州から域外へ積極的にホテルを展開する動きが広がっている。（橋本龍二） 【図】西鉄とJR九州が九州外で展開しているホテル

　「コロナ禍で1年遅れたが、やっとこの日を迎えられた」。現地法人で社長を務める長崎精治氏はこの日の記念式典で感慨を語った。

　一帯は、ひっきりなしにビジネスマンらが行き交い、朝は露天商が朝食を売る声が響く活気あふれる場所だ。外務省によると、タイの日系企業の拠点数は約6000と中国、米国に次いで海外で3番目に多く、通りでは日本のディスカウント店「ドン・キホーテ」のテーマ曲も耳に入ってくる。長崎氏は「日本からの出張者を主なターゲットにしたい」と力を込めた。

　地下1階には会議室のほか、直営のレストランを設け、朝食後はビジネス客向けにフリースペースとして開放する。価格は曜日や時期で異なるが1泊3000～4000バーツ（約1万3000～1万7000円）程度だ。周辺のホテルは低価格帯と高価格帯で二極化しており、需要が見込まれる中価格帯に設定した。

ホテルチェーンの顔も併せ持つ

　本社を置く福岡市を起点とした鉄道や路線バスの運行で知られる西鉄は、ホテルチェーンとしての顔も併せ持つ。ビジネス客向けの「クルーム」のほか、観光客向けの「ソラリア」など複数のブランドを展開し、2024年3月期連結決算では、ホテル部門の売上高に当たる営業収益は264億円、営業利益は25億円に上った。

　海外では新ホテルを含めてバンコクで2か所、韓国のソウルとプサンで各1か所、台湾・台北で1か所を運営する。新ホテル以外はいずれも「ソラリア」ブランドだ。どれも日本人客を主なターゲットに据えるが、看板などを通じて現地での認知度も高まっている。

　国内では、福岡市のソラリアの宿泊客の半数以上を韓国と台湾からの観光客らが占める。西鉄グループでホテル開発を担当する権藤裕輔氏は海外展開でブランド力が高まったとみており、「思わぬ効果だった」と打ち明ける。