加藤シゲアキさん「戦争の中でも人が生きていること、忘れない」 秋田の空襲描いた小説「なれのはて」、執筆に覚悟【つたえる 終戦79年】
戦争をエンターテインメントのコンテンツにして良いのかというのは、すごく悩みました。 それこそ、20代のころ、戦争について知れば知るほど、戦争の映画を見て楽しんでいる自分に葛藤したんです。戦争の苦しみや痛みを描いている作品でも、興奮したり、感動したりするじゃないですか。 戦争を扱っている作品というのは優れたものばかりではなく、その映画が描いているテーマについて調べてみると、こういう描き方はまずいのではないか、戦争賛美になってはいないか、と思うものもありました。 そのため、戦争について書くという発想がそもそもなく、より詳しい人がすればいいと思っていました。 ただ、作家として年齢を重ね、直木賞候補にもしてもらい、責任を伴うようになってきて、社会性から逃げているのは、それはそれで甘えているなと思いました。 また、土崎空襲を知った上で書かないことにもすごく葛藤がありました。作家としての責任から逃げず、覚悟を持って、たとえ非難されたとしても書くべきと考えて執筆したのが、2023年に出版した「なれのはて」でした。 ▽犠牲者にもそれぞれの人生、心の奥を描きたい
出版前の2023年8月に秋田へ行かせてもらい、祖母に戦争の話を聞きました。 印象に残っているのは、祖母の家が建具屋をしており、戦後はアメリカの軍人から製作依頼を受けていたという話です。 空襲の恨みで、アメリカ人を許せないという気持ちになるのかなと思っていましたが、割と普通にやりとりをしていたそうです。もちろん金銭的な理由かもしれず、当時の曽祖父の気持ちは分かりません。 しかし、国を憎んで人を憎まずではないですが、アメリカとアメリカ人は別で、もっと言えば、アメリカ人の中にもいろいろな人がいて、それは当然日本人もそうです。最後は人と人の関係になるのかなと想像して、心に残りました。 戦争は一度始めてしまうと、戦争自体が人格を持って動くようなところがあり、ブレーキを踏めないんです。 そして大きな犠牲を払うことになります。対話をして戦争を起こさないことが大事だと思います。 戦争の犠牲者は、亡くなった方の一部のように片付けられてしまいます。その人たちにもそれぞれの人生があったはずなのに。