ウクライナ侵攻によるロシア兵の死者は11万5000~16万人に、兵士を「使い捨てる」ロシア軍の残酷物語
厄介な部下は前線送り
今回のウクライナ戦争で、ロシア軍が空挺部隊や特殊部隊などのエリート部隊を大量投入して一気にケリをつける戦略から、第2次大戦中のような人海戦術に切り替えたのは、22年5月に始まったバフムートの戦いだった。 これはミートグラインダー(肉ひき器)戦術とも呼ばれ、膨大な数の兵士を前線に送り込むことで、ウクライナ軍を疲弊させるとともに、その位置をあぶり出して爆撃する。 この戦術をバフムートで採用したのは、当時ロシアの民間軍事会社ワグネルを率いていたエフゲニー・プリゴジン(23年8月に死亡)とされる。しかもプリゴジンは、この「使い捨て兵士」に、受刑者と法外な報酬を求める傭兵を充てた。 ロシアは1年間にワグネルの傭兵だけで2万人以上を犠牲にして、廃墟と化したバフムートを制圧した。以来、ミートグラインダー戦術はロシア軍全体に採用され、それとともにロシア兵の死者数は近年の軍事史上例を見ないほど膨らんでいった。 今年2月に展開されたウクライナ東部の町アウディーイウカをめぐる戦いでは、少なくとも1万6000人のロシア兵が命を落とした可能性がある。 ロシア軍の人命軽視の表れは人海戦術だけではない。ウクライナの民間人に対するレイプ、拷問、殺害、誘拐といった蛮行は世界を驚愕させてきた。捕虜となったウクライナ兵の処刑も日常的に行われている。 蛮行の矛先は、ロシア軍内にも向けられている。ソーシャルメディアには、上官の命令を拒否したり、疑問を呈したりしたために拷問を受けたり、重傷を負っているのに前線に送られたりする兵士の映像が大量に存在する。 さらに前線では、ソ連時代のような督戦隊が後方に控えていて、敵前逃亡や投降を図る兵士を射殺している。 このような状況では、自ら命を絶つロシア兵が後を絶たないと聞いても驚きではない。 ソーシャルメディアには、銃口をくわえて引き金を引く兵士の映像が大量に流布している。戦場でもっとむごい死に方をするくらいなら、このほうがましだというのだ。 しかも、犠牲となる兵士の人種に大きな偏りがあることは、ロシアではもはや公然の秘密だ。それどころか、ロシアの「優生政策」の1つであることを、ロシアの有力政治家が認めている。 アレクサンドル・ボロダイ下院議員は今年11月に報じられた流出テープで、ウクライナ軍の銃弾を枯渇させるために大量のロシア兵を戦線に送り込むことで、「社会的価値」の低い「連中を間引き」できると語った。 使い捨てにできる人的資源を、ウクライナの「最も勇敢で大胆な」兵士たちに差し出し、「敵を最大限消耗させる」のだ、と。 ボロダイは決して泡沫政治家ではない。 モスクワ出身の政治コンサルタントで、14年にロシアの後押しを受けて一方的にウクライナから独立を宣言した「ドネツク民主共和国」の首相を名乗り、現在は与党・統一ロシアに属する下院議員。 そんな大物政治家の発言は、政府の狙いを事実上追認するものだ。