【ニール・アームストロング】人類初の偉業が見せてくれる現代の夢とは?
アポロ11号の船長として、人類ではじめて月面に降り立った人物、ニール・アームストロング。月面着陸そのものへの陰謀論もくすぶる中、アポロ計画が現代社会に問いかけるものとはいったいなんなのか。さて、モーリーはどう見る!?
人類が月に降り立って55年が経ち、すでに世界の3分の2の人は当時を知りません。月面のリアリティが遠のき、宇宙に壮大なロマンを感じられなくなった。人々の関心が内向きになり、先進国の状況からもアポロを可能にした環境は作りにくい。でもアームストロングなどのインタビューを見ると、なかなか面白いです。まだコンピューターがなにかもよくわからない時代に、出はじめの集積回路を使って、あの巨大な機械を靴箱くらいのサイズにしています。キーになったのはフライト・システムで、MIT(マサチューセッツ工科大)が作りました。そこに秘話がいろいろとあったようです。 科学者たちは基本的に、宇宙飛行士は極限状態でも正確に作業すると信じて設計しました。だから「もし間違いが起きたら」というケースの優先順位は高くない。そこに高校の数学教師で、小さな娘もいる20代の女性がやってきます。そのハミルトンという女性が任されたのが、うまく動作しなかったときの修復プログラム。独学でコードを学んで作り上げました。 ある夜、娘を連れて仕事をしていたら、娘がシミュレーターを触ってしまい、なにかのボタンを押したそうです。すると全システムがダウンした。これが宇宙で起きないとは限らないと考えた彼女は、プログラムに迂回路を作り、優先順位の高いものを処理しながら、その間に問題を解決する分岐アルゴリズムを作った。最初は上司に「必要ない」と却下されます。ところがアポロ8号でまさに同じことが起き、メモリに押し込まれた。アポロ11号では、結果的に彼女が作ったサブルーティンのおかげで難を逃れます。後に彼女は賞をいくつか受賞し、レゴのキャラクターにもなりました。 当時はそうした若手の天才肌の人たちがいて、前例のないところでプログラミングやソフトウエアの基礎を作った。ハミルトンは子育て中の若いママですからね。アメリカというのは二面性のある国で、いろいろな問題がありながらも、才能のある人に性別や経験による制限を設けることがない。大きな目的に向かって力を合わせるアメリカの底力が、アポロ計画で結実したといえます。 実は現在の日本の立ち位置も面白くて、予算規模は中くらいだけど、だからこそ違うやり方や回り道を考えます。さらに日本の独特なインフラが有機体となって、教育や労働力などの平均値を上げている。実はこれが今後の宇宙開発において、メリットになると思います。日本は実際にかなりすごいことをしている。SORA-QというチョロQみたいなロボットで月面を撮影したりして、とにかく発想がすごい。 実際に〈タカラトミー〉も参加しているのですが、変型オモチャなどで培った柔軟さを感じます。特に日本の開発者や研究者は、50年前と比べてマンガやアニメとの親和性が高い。これを国のレベルで見落としている気がします。縦割り行政の弊害で、アニメと月面がどうして関係あるのか想像できない。これは僕が力説したい点です。日本経済は自己批判的に語られがちですが、たとえば地下鉄の仕組みなんてアメリカとは雲泥の差。日本の技術インフラやおもてなし精神は、ものによっては世界最先端です。そこをもっと考慮すべきだと思います。 アポロ計画を振り返ると、現実の世界は予想外のことばかりだと気づかされます。そこに挑戦する覚悟や才能へのリスペクトは、今の日本の若い世代にも参考になるのでは。月はもはや象徴的な到達点ではなく、その向こうへの中間点。そういう意味で身近になっているのだけど、日本は長らく不況ということもあり、科学に夢を抱く機会があまりなかった。だから月面探査が盛り上がって、ここに夢があると再認識する機会になれば面白いですね。アポロの時代の何万倍もの性能のコンピューターを手にしているわけですから、それを使ってなにをするかです。