「海水のあるところ」の噴火様式のはずだった…「氷河」の山に現れた「炎の巨人」が、欧州で起こした「衝撃の大混乱」
北欧神話に登場する「炎の巨人」を語源に持つ
スルツェイはアイスランド南部ヴェストマン諸島にある火山島の名前だ。1963~1967年に海底での噴火活動を経て新しい島を形成した、まさに西之島のような火山島である。この噴火活動の最中にマグマと海水との相互作用により爆発する様子が初めて詳細に観察されたが、陸上噴火の分類に当てはめることができなかった。そのため島の名前とともに新しく「スルツェイ式」の噴火様式名が提案されたのだ。 スルツェイの語源は北欧神話に登場する炎の巨人「スルト(Surtr)」である。アイスランド人にとっては火山噴火を象徴するような名前が付けられたことになる。火山噴火は古代の人々にとって神聖な現象で、世界中のさまざまな地域でしばしば擬神化されたかたちで記録が残されてきたが、アイスランドでも同様に火山噴火と神話との間には密接な関係がある。 このスルツェイ島の形成とその後の長期的な島の変化は、原初生態系の形成・進化のモニタリングや保護の観点で、西之島の将来像を考える際に参考になる。スルツェイ島では1965年に上陸を規制し、アイスランド政府による厳格な法規制が敷かれた一方で、さまざまな分野の科学者によるモニタリングが継続している。 2008年には世界遺産(自然遺産)に登録され、噴火から60年経った現在でもその科学的価値が損なわれていない。
航空産業界にも影響を与えたエイヤフィヤトラヨークトル火山の噴火
アイスランドの火山では割れ目を作って溶岩を流出するような比較的穏やかな噴火(ハワイ式噴火)が起きやすいが、割れ目が海や氷河の中に形成された場合は爆発的な噴火となる。 2010年4月には首都レイキャビクから南東約120kmにある内陸のエイヤフィヤトラヨークトル火山で噴火が起きたが、氷河の下にマグマが噴出したため、その熱によって氷河が融解し、さらに解け出した水とマグマが反応することで爆発的噴火が発生した。結果として、よく破砕された火山灰が大量に生産され、高度約9kmに達する噴煙が持続した。 火山灰は欧州の広域に拡散することが予測されたため、火山灰が航空機のエンジンに影響を及ぼすことを懸念した航空会社は多くの便をキャンセルにした。噴火活動が活発だった2010年4月16日から21日の6日間に欧州全体で9万5000便がキャンセルとなったが、実際には火山灰(とくに大気中濃度)が航空機のジェットエンジンに及ぼす影響や火山灰の大気中での拡散予測の精度に不確実な部分も多かったため、安全サイドに立った判断がなされたのだ。 このエイヤフィヤトラヨークトル火山の噴火は、航空産業界に対しジェットエンジンに火山灰が混入した際にどの程度のダメージがあるのかを実験に基づき定量的に明らかにし、しっかりとした安全基準を構築することや、噴火時の火山灰の拡散や濃度の予測のためのモデリング手法の高度化の流れを作り出すきっかけとなった。まさに航空産業を中心に関係業界を本気にさせた噴火だったといえる。 * * * 続いて、このマグマ水蒸気爆発が観察された福徳岡ノ場の噴火活動についての解説をお届けします。 島はどうしてできるのか 火山噴火と、島の誕生から消滅まで 島……その創造と破壊から、地球の姿が見えてくる
前野 深(東京大学地震研究所准教授)