新型ホンダ スペース ハブの可能性と移動の自由を考える。“21世紀のスーパーカブ”を作れるのか?
ホンダが発表した新しいBEV(バッテリー式電気自動車)の0シリーズ。日本に上陸した2モデルのうち、次に「スペース ハブ」を解説するとともに、同社の未来を考えた。 【写真を見る】新型スペース ハブの内外装を徹底チェック!!! 次世代のオデッセイか!?
惑星探査車を彷彿とさせる
ホンダが「ウェルカムプラザ青山」(東京都港区)に展示している新しいBEVの0シリーズはサルーンだけではなく、おなじく今年1月のCES(かつてのコンシューマー・エレクトリック・ショー)で発表したスペース ハブも公開している。 うずくまったように背が低いサルーンとは対照的に、背が高くて四角い形状をしたスペース ハブは見るからに室内空間が広そうで、ピープルムーバーとしての役割を担っていることが一目でわかる。その出で立ちには、未来のクルマというよりも宇宙船で運ばれてきた惑星探査車を思い起こさせるものがある。 キャビンには、フラットなフロアのうえに掛け心地がよさそうなソファを思わせるシートが4席あり、対面形式でレイアウトされている。これとは別に1列目シートもあって、ここにも2名が腰掛けられる模様。1列目シートの目の前には、全面がディスプレイに覆われたダッシュボードが置かれているが、その下はフロントウィンドウの真下まで“筒抜け”で、いかにも広々としている。 正直、この種のミニバン的BEVはこれまでにもたくさんのコンセプトカーが発表されてきたものの、その多くは、車内に大きなディスプレイなどを設け、インフォテインメントで乗員を喜ばすようなコンセプトを採用しているのに対して、スペース ハブにはその手のディスプレイが見当たらない。 ちなみに、ホンダが公開中のイメージビデオを見ても、やはりインフォテインメントを楽しんでいる場面は登場せず、旅に出かけた家族が周囲の景色を眺めているようなシーンが繰り返し現れる。この辺は、“走りを楽しむピープルムーバー”としてのコンセプトを視覚的に表現しているのかもしれない。
ホンダへの期待
ちなみにホンダ0シリーズは、前回紹介したサルーンをフラッグシップとし、このスペース ハブにくわえてSUVが登場することが正式にアナウンスされている。取材会でインタビューに応じたBEV商品企画部の中野弘二部長はコンパクトカー的なモデルも登場すると示唆した。つまり、少なくないモデルが0シリーズとしてデビューすることが期待されているのだ。 ただし、0シリーズの位置づけは、率直にいって、ちょっとわかりづらい。 「今後ホンダから登場するBEVはすべて0シリーズと呼ばれます」だったらわかりやすいが、これとは別に、中国、北米、日本などの各国市場向けに開発されたBEVなども存在する。さらにいえば、ソニーとの協業で誕生するAFEELAも控えていて、ちょっとばかり複雑だ。 いずれにせよ、ホンダ自らが0シリーズと名付け、自分たちの原点に立ち返って創造すると宣言しているのだから、その役割は重要。聞くところによれば、社内では“これが第2の創業”と、位置づける向きもあるそうだ。 さすがにホンダの未来を背負うグローバルモデルともなれば、このくらい立派な建て付けにならざるを得ないのだろうが、それに応じて価格帯も高めになると予想するのが自然だろう。 けれども、かつての「N360」や初代「シビック」のことを知っている者としては、一抹の寂しさを禁じ得ない。“個性的でオシャレだけれど、ちょっと背伸びすれば誰にでも手が届く”……そんなBEVを出して欲しいとホンダに期待してしまうのは、私ばかりではあるまい。 もうひとつ、ホンダに期待したいことがある。ひとり乗りかふたり乗りで、最高速度も30~40km/hでかまわない。そのかわり、先進的な安全運転支援装置や“半”自動運転技術を盛り込んで、高齢者や障害を持つ人にも“移動の自由”を提供できるモビリティは実現できないだろうか? もちろん、そのためには法整備も必要かもしれないが、もしもこれがリーズナブルか価格で登場すれば、“21世紀のスーパーカブ”のような存在になってもおかしくないと思う。 そして、そうした手軽なモビリティを提供することも、ホンダの原点のひとつであると私は信じている。
文・大谷達也 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)