米ドルの「売られ過ぎ」が懸念されるなか…米雇用統計発表後の〈米国株の急落〉が意味すること【国際金融アナリストが解説】
投機筋ポジションも「行き過ぎ」懸念強まる
次に、短期売買を行う投機筋のポジションを見てみましょう。ヘッジファンドの取引を反映するCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションは3日現在、買い越し(米ドル売り越し)が4万枚以上に拡大しました。 低金利の円の買い越しは、経験的には5万枚を超えてくると「行き過ぎ」懸念が強くなります(図表5参照)。 一方、米ドルのポジション(主要5通貨=日本円、ユーロ、英ポンド、スイスフラン、加ドルで試算)は3日現在、売り越しが17万枚以上に拡大しました。米ドルの売り越しは、経験的には20万枚を超えてくると「行き過ぎ」圏といえます(図表6参照)。 したがって、徐々に米ドル売りも「行き過ぎ」が懸念される状況になってきた可能性があります。 短期的な“行き過ぎ”シグナルが増えるなか、今週は「修正」が起こる可能性 以上を整理してみましょう。「米金利低下=米ドル安」は、短期的な「行き過ぎ」懸念が強くなってきたようです。そして円買い、米ドルとも、それぞれ「行き過ぎ」警戒域に近づき始めたと考えられます。 現在は、9月18日のFOMCでの利下げを目標に、「米金利低下=米ドル安」を模索する展開が続いていると考えられますが、これまで見てきたように、短期的な「行き過ぎ」シグナルが増えるなかで、FOMCまで「米金利低下=米ドル安」を維持できるかは、微妙かもしれません。 米ドル/円の場合なら、この間の安値の141.6円の更新はともかく、このままFOMC前に140円を割れるかは懐疑的で、今週はいったん「行き過ぎ」の修正が起こる可能性もあります。
今週の注目点…雇用統計後の株安は続くのか?
この先、米ドル/円が140円を割れて下落に向かうかは、9月FOMCの利下げ幅が0.5%以上になるか、さらにその後の11、12月のFOMCでも、連続的に利下げが実施されるかが大きな目安といえます。 これについては、6日の米8月雇用統計の結果が重要な判断材料と位置づけられていましたが、結果的には、大幅利下げや連続利下げを判断するには不十分との評価が、一般的なようです。 こうしたなか、個人的に注目していたのは、雇用統計発表後の米国株の急落です。 株価は基本的に、景気に対する先行指標の1つとされます。そんな株価が最高値圏で推移している状況で、はたして大幅利下げや連続利下げが必要になるか、個人的には極めて懐疑的でした。 最近まで、“悪いニュースは良いニュース”として、経済指標等が悪い結果であったとしても、利下げ期待を媒介に株高で反応する傾向が続いていましたが、6日の米雇用統計でNFP等が予想より弱い結果(=“悪いニュース”)となったのに対し、株価は急落の反応となりました。 景気の先行指標である株価が比較的大きく下落に向かうようなら、それは景気の先行き減速を示唆している可能性があるので、本格的な米利下げが現実的となってきます。引き続き、注目していきたいと思います。 ここまで見てきたように、米ドル安・円高関連で短期的な「行き過ぎ」シグナルも目立ち始めたことから、このまま一気に140円を割るのは難しいのではないか、と考えています。 6日の雇用統計発表後に、米ドル/円は一時144円程度まで反発する場面もありましたが、「行き過ぎ」の反動が入れば、この程度米ドル高・円安に戻すことはあるでしょう。以上を踏まえ、今週の米ドル/円は140~145円と予想します。 吉田 恒 マネックス証券 チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティFX学長 ※本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。
吉田 恒