親権をもてなかった母親への冷たい視線――子どもと別居する苦しさと葛藤
「母親なのに」世間の視線に傷つく
「親権を欲した母親が、親権をもてないのはつらいでしょう。でも乳幼児は母親が衣食住の世話をするべきという『3歳児神話』は、真実ではありません。愛情をもって接してくれる大人がいれば、父親でも母親でも保育者でも、きちんと子どもは育ちます」 そう話すのは、母性研究の第一人者として知られる大日向雅美さん(恵泉女学園大学学長)。長年、女性のライフスタイルや子育てについて研究し、母親の役割の重要性を過度に強調する傾向に警鐘を鳴らしてきた。 さまざまな事情で子どもを手元で育てられない母親も、ある意味、「母性愛神話」の被害者だ。「母親なのに」「母親のくせに」という世間の視線に深く傷つく母親も多い。 矢代早希さん(仮名、41)もまた、娘(12)と別居していることに苦しんできた母親だ。 元夫は、早希さんに暴力を振るったが、娘には優しかった。娘は当時3歳。離婚しても一緒に子育てをしていこうと話し合い、最終的に元夫が親権をもち、早希さんが監護権をもつことにした。親権者と監護権者は一致することが多いが、別々になることもある。 早希さんはアパートを借り、娘と2人で暮らし始めた。定期的に面会交流を行い、週末には娘が元夫の家に泊まることもあった。
4カ月後、元夫が復縁を求めてきた。早希さんが断ると、元夫は娘を帰してくれなくなった。 「(自分のところに)戻ってこないなら、もう娘を会わせないよ、って。実際、それから3カ月間、私は娘と会えませんでした」 耐えられなくなった早希さんは、家庭裁判所に面会交流と親権者変更の調停を申し立てた。しかし、その時点ですでに元夫と娘が数カ月間、問題なく暮らしていることから「監護の継続性の原則」が重視され、親権者変更は認められなかった。 「面会交流は認められましたが、わずか月2回でした。まわりの人たちに『これでも相場より多いんだよ』と慰められましたが、私には全然、足りなかった。それまで毎日一緒にいたのに。まさに片腕をもぎ取られるような痛みを味わいました」 家族連れを見るのがつらくて、ショッピングモールに行けなくなった。スーパーで幼い子どもの「ママ!」という声を聞くと思わず振り返った。 「まさか元夫がこういう形で親権を振りかざしてくるとは思いませんでした。でも、それを見抜けなかったこと、復縁を断ったことは、私のせい。すべて私が悪いんだと思ってしまい、自分のすべてに自信がなくなりました」