親権をもてなかった母親への冷たい視線――子どもと別居する苦しさと葛藤
子どもと暮らすつもりで選んだ職場はシングルマザーが多く、話題は子どものことばかりだった。 「シングル家庭が大変だということはよくわかるのですが、私には、愚痴が全部、自慢話に聞こえてしまうんです。私だって子育ての苦労を味わいたかった……」 同僚は親切で、千佳さんの事情についてはふれてこなかった。しかし、同僚の心の中に「なぜ子どもを引き取れなかったの?」という思いがあるのが透けて見えた。 「もちろん、私に直接、そういうことを言ってくる人はいません。でも、たとえば、有名人の離婚問題が話題になったときなどに、(親権をもたない母親に対して)『母親なのに』といった世間の本音がわかるんです」
自信が生まれ前向きに
千佳さんは調停の結果、子どもと月1回の面会交流が認められた。その後、離婚が成立。元夫が親権者となり、千佳さんは月4万円の養育費を払うことになった。子どものために、それに5000円上乗せして払っている。 「調停もあって子どもとは8カ月も会えませんでした。その後も、相手方の都合で面会交流は年1回程度、しかも相手家族の監視付き。母子だけで月1回コンスタントに会えるようになったのは、別居から4年経ってからです。面会交流で久しぶりに会えるというとき、私としては話が盛り上がらないんじゃないか、拒否されるんじゃないかって不安でいっぱいだったんです。でも、子どもたちは昨日まで一緒にいたかのような勢いで、『やあ!』ってふつうに接してくれたんです」 その後の面会交流もごく自然に、ごはんを食べて、買い物をして、学校の話を聞いたりした。そうした交流を繰り返していくうちに、千佳さんの中に「ああ、もうこの子たちから私の存在が消えることはないんだ」という自信のようなものが湧いてきた。お乳を飲ませ、添い寝をし、抱きしめてきた母親の肌の記憶は、子どもたちから消えることはないと考えるようになった。 離れて暮らしてはいるけれど、子どもたちの中にしっかりと母親が息づいている。そう気づいてから千佳さんは、人生を前向きに考えられるようになった。 「子どもが誇らしいと思える母親になりたい。困ったとき頼れる母親でいたい」 日々、その気持ちを胸において生きる千佳さんは、まぎれもなく「子育て」をしている。