少子化脱却、人口移動改善策「青森モデル」 子育て世代、有識者はどう捉えた?
少子化脱却と人口移動の改善に向け、青森県が10月末に発表した総合的な対策「青森モデル」。県内の子育て世帯や有識者らは「子どもに焦点を当てつつ親が生き生きできる環境が整い、子育てしたいと思う人が増える良い連鎖が生まれてほしい」「県外に出た若者や女性が戻りたいと思える魅力的な場所があることを示してもらえれば」などと施策の先行きを注視している。 「どれくらい実現するのか分からないが、全部なら理想的」。5歳の長男を育てる八戸市の角倉ゆかりさん(34)は、11月下旬の取材にこう答えた。 青森モデルでは、女性1人が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率を5年後に現状の1.23から1.68へ引き上げるとともに転出超過の緩和を目指し、若者や女性の県内定着から結婚、妊娠・出産、子育て支援まで74の取り組みをまとめている。 子育て中の母親らからは、ベビーシッターや小児科オンライン診療を利用しやすい仕組みづくり、親の就労に関係なく時間単位で子どもを預けられる「誰でも通園制度」普及などが盛り込まれたことへの期待の声が聞かれた。 角倉さんは「息子が幼稚園に入るまでは1人になれる時間がなかった。ベビーシッターをもっと気軽に使えたら良かった」と回顧。また、「子どもは体調を崩しやすいけど、病院は待ち時間が長く、嫌がったりもするので連れて行くのは一苦労。直接診てもらえたら確かに安心だが、同じ薬を続ける場合などはオンラインなら助かる」と話す。 2児を育てる同市の佐藤浩子さん(36)は「子育てしながら働いているとしょっちゅう休まなければならない。シッターや病児・病後児保育など自分だけではまかなえない時の預け先の数を増やし、認知度を上げてほしい」と語る。 一方、自身も保育士として働く立場から、誰でも通園制度には「今預かっている子たちで手一杯なのに、単発で新しい子が来るのは命を預かる側としては不安。人材確保など働く側の環境を整えた上で進めてほしい」と注文した。 現在、同制度は青森、八戸の2市で試行している。実施する若芽保育園(青森市)では、通常の配置に加え、制度の利用者に備えて常に保育士が1人待機している状態で、小林直人園長は「現場の負担は増えている」と指摘する。 同園では6年ほど前から病児・病後児保育専用の部屋を設けているが、一度も同保育を実施していない。看護師といった専門職の予算確保や人繰りへの懸念から踏み出せないという。 小林園長は「保育現場の改善は国じゃないとできないことも多い。園にも保護者にも負担が軽減されるおむつのサブスクリプション(定額利用)など、県でできる部分の施策に期待している」とし、国、県、市町村がそれぞれ力を発揮することを願った。 ▼地元企業の体力強化を/産む世代の受け皿に 少子化問題に詳しい八戸学院大学の堤静子特任教授は、「少子化に対する県民の意識を醸成するきっかけになるのでは」と青森モデルを評価する。中でも、いざという時に子どもを預けられる制度の充実に着目。「子どもの体調不良で仕事を休まざるをえないのは親の一番の困り事。働く女性が申し訳なくて縮こまってしまう一因になっている」として、病児保育などの受け入れ態勢強化を望む。 施策を実行するために「潜在保育士」の活用など新たな雇用の場が生まれるのが理想-と説明する堤氏。デジタルトランスフォーメーション(DX)による職業の選択肢の多様化も進めるべきだと語る。 一方、少子化脱却に向けた根本的な課題として「地域の産業が強くなければ女性が本県に戻って来られない。産める世代が還流しないと子どもが増えることはない」と指摘。企業体力強化の必要性を強調する。 堤氏は、若者や女性にとって魅力的でなければ企業に人は集まらない-とし、「働き方改革や収入増が進まなければ、親も子に『戻って来て』とは言えない。本県の大半を占める小規模事業者が受け皿になれるよう、地元企業を下支えする施策もほしい」と話す。また県内でも事業承継やM&A(買収・合併)が進む中、「経営者の世代交代に合わせ、固定的性別役割分担などの意識改革が進むチャンス」と語った。