【どうしてわかるの?】相手の「深い感情」を引き出す人の対話術・ベスト1
多くの企業で「1on1」が導入されるなど、職場での「コミュニケーション」を深めることが求められています。そのためには、マネジャーが「傾聴力」を磨くことが不可欠と言われますが、これが難しいのが現実。「傾聴」しているつもりだけれど、部下が表面的な話に終始したり、話が全然深まらなかったりしがちで、その沈黙を埋めるためにマネジャーがしゃべることで、部下がしらけきってしまう……。そんなマネジャーの悩みを受け止めてきた企業研修講師の小倉広氏が、心理学・心理療法の知見を踏まえながら、部下が心を開いてくれる「傾聴」の仕方を解説したのが『すごい傾聴』(ダイヤモンド社)という書籍。「ここまでわかりやすく傾聴について書かれた本はないだろう」「職場で活用したら、すぐに効果を感じた」と大反響を呼んでいます。本連載では、同書から抜粋・編集しながら、現場で使える「傾聴スキル」を紹介してまいります。 ● 「感情」の裏には、必ず別の「感情」が存在している 人によって語られるエピソード一つにつき、最低でも五つの感情が含まれると言われています。 誰かの話を「傾聴」するときには、それらの感情を一つずつ明確化するとともに、一つひとつの「感情」を体に響かせ、話し手と一緒に味わい共感していくプロセスが非常に大切です。 そのときに、意識しておくべきことがあります。 それは、「感情」の裏には、必ず別の「感情」が存在するということです。 例えば、ある課長が、部下である主任から、「一生懸命に指導しているのに、後輩がなかなか仕事に対して前のめりになってくれいない」と「不満」を打ち明けられたとしましょう。後輩のやる気を引き出そうと、あの手この手のアプローチをしているエピソードを聞きながら、課長は「あなたは、部下に対して『もどかしい!』と感じたのですか?」と確認したところ、主任は、「そ、そうですね……もどかしいような、じれったいような……そんな気持ちですね……」と回答。ここに、「もどかしい、じれったい」という感情が明らかになったわけです。 ● 「もどかしい」の裏に「落胆」があり、「落胆」の裏に「期待」がある しかし、主任の感情は、それだけにはとどまりません。その「もどかしい、じれったい」という感情の裏側に、「もっと後輩に積極的になってほしかったのに……」という「がっかり落胆した」という感情があるはずです。だからこそ、「もどかしい、じれったい」と感じるのです。 さらに、「落胆」という感情の裏側には「後輩に対する期待」という感情が存在していることも間違いないでしょう。「期待」もしていない人に、「落胆」もしないし、「もどかしい、じれったい」とも思わないはずだからです。 このように、一つの「感情」を起点に、どんどん「感情」を掘り下げていくことで、深い「気づき」を得られるようになるわけです。先ほどの主任は、「後輩に対する不満」に悩んでいたのですが、その奥には「後輩に期待していた自分」という存在に気づくことができました。これは、主任が後輩に対する接し方を自ら振り返る、非常に貴重な機会となるに違いありません。これこそ「傾聴」のすばらしさなのです。 ● 「右脳」と「左脳」で傾聴する そして、ここで重要なのは、実は「左脳」です。 どういうことか?「落胆」という言葉を体に響かせて、その感情が存在しているかどうかを感じ取るのは「右脳」の働きですが、「期待しているからこそ落胆する。ということは、落胆したということは、その背後には期待という感情があったはず」と推論するのは「左脳」にほかならないからです。 もちろん、あくまで「推論」ですから、相手に「期待していたのでは?」と確認した結果、「いや、そうではないですね……」と否定される可能性は常にあります。でも、それで全く問題ありません。であれば、「では、○○では?」と別の感情を探せばいいだけ。大切なのは、そうやって一緒になって、「感情」を深掘りしていくプロセスなのです。 (この記事は、『すごい傾聴』の一部を抜粋・編集したものです) 小倉 広(おぐら・ひろし) 企業研修講師、心理療法家(公認心理師) 大学卒業後新卒でリクルート入社。商品企画、情報誌編集などに携わり、組織人事コンサルティング室課長などを務める。その後、上場前後のベンチャー企業数社で取締役、代表取締役を務めたのち、株式会社小倉広事務所を設立、現在に至る。研修講師として、自らの失敗を赤裸々に語る体験談と、心理学の知見に裏打ちされた論理的内容で人気を博し、年300回、延べ受講者年間1万人を超える講演、研修に登壇。「行列ができる」講師として依頼が絶えない。 また22万部発行『アルフレッド・アドラー人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)など著作48冊、累計発行部数100万部超のビジネス書著者であり、同時に心理療法家・スクールカウンセラーとしてビジネスパーソン・児童・保護者・教職員などを対象に個人面接を行っている。東京公認心理師協会正会員、日本ゲシュタルト療法学会正会員。
小倉 広