森永卓郎氏が警鐘を鳴らす「世界恐慌の前触れ」 老後資金を失う人が続出する未来
株価の乱高下は世界恐慌の前触れ
バブル崩壊のメカニズムは、地震の発生と同じです。地盤のひずみがじわじわと蓄積し、やがて限界に達して地震が起こる。その前兆が、今年8月に起こった株価の乱高下です。あの状況を目の当たりにして、さすがに皆も内心「おかしいぞ」と思ったはずですが、「王様は裸だ」とはなかなか言えない。 私はもう、金融関係の仕事はしなくていいと思っているので、本当のことをはっきり口に出せますが、いわゆる"金融村"に住んでいる人たちは、あれこれ理屈をつけて現在の株価を正当化しています。 本来なら2008年に起こったリーマンショックが大地震となり、溜まったひずみが調整されるべきでした。しかし、あの時は、中国が天文学的な公共投資で世界経済を引きずり上げたため、十分な調整が行なわれなかった。そのツケが今になって回ってきています。世界に先行して不動産バブルが崩壊した現在の中国に、世界を救う力はありません。今度は一直線に落ちていくだけです。 その先に待ち受けるのは世界恐慌です。欧米も景気のピークは過ぎ、米国が利下げするのはほぼ確定で、欧州はすでに利下げを決めている。世界が金融緩和に向かう中、日本だけが金利を上げる暴挙に出ています。 これも実は、約100年前に当時の内閣総理大臣だった濱口雄幸が同じ失敗をしていて、財政と金融の同時引き締めを断行した結果、日本は昭和恐慌に突入して国民生活は悲惨を極めました。
株価は80%暴落し、為替は1ドル90円台に?
こうした過去を踏まえて、これからの10年を予測すると、真っ先に起こるのは株価の大暴落でしょう。しかも今回は史上最大のバブルなので、下がり方も半端ではない。1929年の米国金融恐慌でも、1989年末からの日本のバブル崩壊でも、株価は80%強暴落したので、少なくとも同程度は下がるはずです。 さらに恐ろしいのは、同時に急激な円高が進行すること。これまでは投機筋の円売りによって円安に振れていましたが、IMF(国際通貨基金)が2024年4月に発表した最新の世界経済見通しでは、購買力平価の推計値を1ドル=約91円としています。 つまり、短期的には為替相場が上下に振れたとしても、長期的には「どの国でも同じ商品やサービスの価格が等しくなる為替水準に収束する」というのが購買力平価の理論なので、近いうちに為替レートは1ドル=90円台まで上昇するはずです。 一時は1ドル=162円近くまで円安が進んだので、45%ほど円高になる。そこへ80%の株価下落が重なれば、外貨建て金融資産の価値は10%も残らないでしょう。 そうなると、新NISAの開始に乗っかって貯蓄を投資に移した人の多くが破産者となり、老後資金を失う人が続出する。これが私の目に映る近未来の光景です。この変化の行き着く先は、グローバル資本主義の完全なる終焉です。要するに「金を出して世界のどこかから安く買ってくればいい」という経済が成り立たなくなるわけです。 今から遡ること150年前、経済学者のマルクスは「資本主義は必ず行き詰まる」と指摘しました。その理由を彼は4つ挙げています。1つめは地球環境の破壊。2つめは許容できないほどの格差の拡大。3つめは少子化の進行。そして4つめがブルシット・ジョブ、日本語に訳すと「クソどうでもいい仕事」の蔓延です。 中でも大都市で働く非正規社員の仕事は、コンピュータに管理・指示され、まるで機械の歯車のようにボロボロになるまで働かされるようになる。そこには何のやりがいも楽しみもありません。 しかも今後、定型的な作業はどんどんAIに置き換わります。すると最終的にはブルシット・ジョブもAIに代替され、人間との価格競争になっていく。クソどうでもいいうえに、お金も稼げない仕事にしがみつくという悲惨な状況になるでしょう。
森永卓郎(経済アナリスト)